東京・神田の一角にある食堂型ミュージアム『風土はfoodから』の暖簾(のれん)の隙間から光と笑い声が漏れてくる。

 ここで「世界一おいしい社会科の時間」のイベント「くしゅくしゅのマジック!ブルガリアの“バニッツァ”をつくろう!」が行われていた。

 バニッツァとは、ブルガリアのソウルフードといわれる家庭料理。ヨーグルトやチーズを入れた朝食やおやつの定番である。

 3種類のバニッツァを3チームに分かれて作りながら、ブルガリアという国の歴史や風土を知るイベントだ。

料理を食べながら「土産話」

 講師を務めていたのは、料理レシピ投稿・検索サービスの『クックパッド』に勤務しながら、「世界の台所探検家」としても活躍する岡根谷実里さん(30)。

「ブルガリアといえば何を思い出しますか?」「ヨーグルト」「では、なぜ、ヨーグルトが普及したのでしょうか」─。

 岡根谷さんが解説する。

「ブルガリアは、かつて社会主義国でした。食料政策で大事なのは、すべての人に良質な栄養源を提供すること。でも当時、肉は生産するのに多くの資源を必要とする高価な食べ物だった。そこで、安価で栄養価も高く、多くの人のお腹を満たせるヨーグルトが国営企業によって作られていったのですね」

 場所柄か、会社帰りの男女が多く集まっている。

ブルガリアのバニッツァを作り、台所から見えた経済状況や文化に関する話に耳を傾ける参加者 撮影/伊藤和幸
ブルガリアのバニッツァを作り、台所から見えた経済状況や文化に関する話に耳を傾ける参加者 撮影/伊藤和幸

「この料理、日本だったら何に近いと思います?」と岡根谷さんが問いかけると、

「お好み焼き!」「お焼き!」「餃子!」「春巻き!」

 などなじみのある料理名を参加者たちが複数挙げた。

 形は違っても、似たような料理は世界中にあるものだ。

「自分たちと同じようなものを食べているとわかると、人は親しみを覚える。私は“あの人たちは違うんだよ”という意識をなくしたい。全然違って見えていても、彼らも私たちと同じ人間。それが投げかけの意図にあるんですよ」

 イベントを岡根谷さんと一緒に企画した小学校の元教員、宇佐川乃理子さん(31)は、岡根谷さんのこだわりに驚いたと言う。

「すごく行動的である一方でよく考える人ですね。キャッチコピーひとつにしても延々とこだわります。かと思えば、当日の流れは一切決めずに自由にやっちゃう。心配性の私はハラハラでした」

 フェタチーズを包んだパートフィロ(小麦粉の薄皮)を「くしゅくしゅ」とまとめていくのが楽しい。

「バニッツァは、家庭ごとに作り方が違います。このレシピはこちらのお姉さん、いちばん簡単なのは、このおばあちゃんに教わったものです」

 ブルガリアで出会った人の顔写真を見せ、岡根谷さんは楽しげに「土産話」をする。参加者たちは、バニッツァという料理を食べながら、遠い国に暮らす人々の姿を思い浮かべ、その話に耳を傾けた。