翌日、湯川さんが生で聴いた氷川の『ボヘミアン・ラプソディ』は、

「本当にすごかったです。大型モニターに映る氷川君の目がもう、飛んでるのね。いつものかわいいきーちゃんじゃなくて。もう完全に主人公になりきっていた。でもフレディ・マーキュリーのまねじゃない。全然コピーじゃない。もう途中から涙はボロボロ出てくるわ、耳の後ろはゾクゾクするわ。歌い終わった瞬間、“ブラボー! ブラボーブラボー!”と叫んでいましたよ」

 まさに魂の絶唱だったと振り返る。そんな氷川の『ボヘミアン・ラプソディ』を、ぜひ発売してもらいたいと願うところだが、

「そうですよね。今月、クイーンが日本に来てくれますから。『きよしこの夜』の映像や音源をクイーンに届けたいと思っています。その結果、アルバムなのかDVDなのかはわかりませんが、発売ができるような認可をもらいたいと思っています」

 湯川さんは、間違いなく、氷川は魂のアスリートだと断言する。

「特に昨年の20周年の活動を見てきて、そう思いますね。今もたくさんの優れた歌い手さんはいらっしゃいますけれど、私の位置づけとしては、美空ひばりさんの後に位置する歌い手になっていると思いますね。生まれついての華、天性。それは神様にもらったものなんですよね」

 ただし、どんなダイヤモンドの原石も、そのままでは輝かない。

「自分で磨いて磨いて磨いて。そして、上から光が差し込むことで、ブリリアンカットはやっと光るんですよ。そうやって得た輝きは、誰にもまねできず、追従できない。ただ、磨いているプロセスは本当に苦しい。孤独を抱え込まないといけない。それを彼は確実に今やっていますよね。そういう意味での燦然とした光を、氷川君は放ち始めた段階じゃないかしら?」

 選ばれし者が、さらなる高みへ。湯川さんには、氷川の背中から白い翼が見えると微笑む。

「だからこそ、不幸になってほしくないのよね。スーパースターはみんな、それで不幸になっていくから。短命な人も多いです。エルビスは42歳、マイケルは50歳、美空ひばりさんも52歳でこの世を去っていますから。氷川君には長生きしてほしいし、ひとりの人間として幸せになってほしい」

 それは孤独を埋める、愛する家族を持つということ?

「そう。例えば、スーパースターの中でも、エルトン・ジョン。映画『ロケットマン』のとおり、あれだけの苦しみを背負いながら、彼は生き抜いたじゃないですか。今は2人の子どもがいて。本当に幸せそうよ。ああいう幸せをつかむ可能性って、非常に少ないですよね。でも、私は氷川君によく言うの。“不可能はない。あなたが何を望んでも、あなたが努力する限り不可能はない!”ってね。本当にそう思うのよ、ばぁばとしてね(笑)」


湯川れい子 1936年生まれ。音楽評論家、作詞家、翻訳家。エルビス・プレスリーやビートルズを日本に広めた功績は大きい。作詞家としてのヒット曲に『涙の太陽』『ランナウェイ』『センチメンタル・ジャーニー』『六本木心中』など多数。音楽業界でのキャリアは今年で60年