大手デパートで販売員をしているという20代の女性は、

「50代くらいの女性のお客様から“これから大阪に行くから溶けないチョコレートが欲しい”と言われました。ただ、真夏の時期だったこともあり、まったく溶けないとは言い切れませんと伝えました」

 すると“溶けないことを保証してくれるまでここにいます!”とお店のカウンターに居座り続けるという暴挙に出たという。

「デパートだったので、ほかの製菓店の方と協力してチョコレート以外のお菓子をすすめてなんとか解決しました。“このままじゃ新幹線に間に合わないわよ”と脅されているようでした……」

相手の言葉は否定しないこと

 客からのクレームを生み出さずに防ぐことは大切だが、万が一の場合、被害を最小限に抑える対処法はあるのだろうか。

 前出・石崎さんは、

店側ができることはある程度決まっていて、まずは気持ちよく謝ることです。謝ると法的な責任を認めることになるんじゃないのか、などと言われることがありますが、お客様の気分を害して申し訳ございませんという道徳的な話をしているので、責任とは別の話です。気持ちよく謝れば、それ以上、文句を言ってくる人はほとんどいないでしょう」

 時間だけが取られてしまうため、客とは議論をせず、言ったことを否定しないのも重要だという。

「現場の人が曖昧なことを言ってしまうのもよくないので、いったん持ち帰るなどの対応をとりましょう。余裕があればやりとりを記録しておくのもいいでしょう」

 現場のスタッフはクレーム対応が本業ではない。だからこそ、どこまでやればいいのかという緊急時のマニュアルを作っておくことも企業には求められる。

「お客様は神様ですという風潮はありますが、店は料理を提供し、客はそれに対してお金を支払うという平等な契約なんです」(石崎さん)

 消費者は、いま1度、行動を見直す時代になってきたのかもしれない。


石崎冬貴(いしざき・ふゆき) ◎神奈川県弁護士会所属。賃貸借契約から労務問題、風評被害、漏水まで、飲食店の法務を専門的に取り扱うほぼ唯一の弁護士。カスタマーハラスメントや無断キャンセル問題など顧客対応にも精通している。著書に『なぜ、飲食店は一年でつぶれるのか?』『飲食店の危機管理【対策マニュアル】BOOK』(いずれも旭屋出版)などがある。