子役に教わった「やればできる」

 そして『ビリー・エリオット』と『メリー・ポピンズ』で、また俳優として大きな転機を迎えた。

1年以上をかけたビリー役のオーディションで勝ち抜いてきた子どもたちが、目の前ですごい努力をして、みるみるさまざまなことができるようになっていく。それを間近で見て心を動かされたし、“人間やればできるんだ”と知っちゃったんです。

 それで自分が努力を怠っていたことに気づいた。俳優をしながら、僕は無意識に“自分はダンサーだから”って言い訳をしていたんです。そこから僕の人生が変わりました。『メリー・ポピンズ』のバートはダンスも歌もたいへんでしたが、ビリーたちの努力を思えば自分もがんばれました(笑)」

 最近は映像の仕事でもいろいろな刺激があり、ますます充実した毎日に。

「お芝居って、フィクションをいかにリアルに表現できるかということが面白みだと思っています。映像のお仕事を経て、より俳優としての“役のつき詰め方”みたいなものが勉強できました。

 お芝居もダンスも好き。舞台をクリエイトしていく稽古の時間が好き。いまはとにかくひとつひとつの作品を大事にいろいろな経験をして、ダンスが芝居の、芝居がダンスの役に立つようなものを、もっともっとできたらいいですね」


おおぬき・ゆうすけ 1988年8月31日、神奈川県生まれ。母親の経営するダンススタジオで7歳よりダンスを始め、17歳でプロのダンサーに。2011年『ロミオ&ジュリエット』で死のダンサーに抜擢され、『100万回生きたねこ』『マシュー・ボーンのドリアン・グレイ』『ビリー・エリオット~リトル・ダンサ~』『メリー・ポピンズ』などで実力を発揮。近年はドラマ『高嶺の花』『ルパンの娘』『グランメゾン東京』などで人気を集めた。ミュージカル映画『キャッツ』では吹き替えに挑戦している。

『ねじまき鳥クロニクル』

 村上春樹の代表的長編小説を、イスラエルの鬼才、インバル・ピントの演出・美術・振り付け、アミール・クリガーと藤田貴大の脚本・演出で舞台化。主人公のトオル役を成河と渡辺大知がふたりで表現し、“死”への興味を持つ女子高生には門脇麦があたるほか、個性的な俳優たちが「演じる・歌う・踊る」。そこに「特に踊る」ダンサーと、音楽の大友良英らの演奏が加わって世界を形成する。2月11日~3月1日、東京芸術劇場プレイハウスで上演。大阪、愛知公演もあり。詳しくは公式HP【https://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2020/】へ

取材・文/若林ゆり ヘアメイク/松田蓉子