地元の中学に進んだが、学校のあり方も授業内容も画一的でつまらなかった。高校レベルの「くもん式」を続けながら、「もっといい教育を受けたい」と願っていた。受験対策のプリントも物足りないから、さっさと終わらせて教科書を読んでいた。それが教師の気に障ったようだ。

「私は私でやる気をなくして、プリントもやらず、時間が来るとプリントをゴミ箱に捨てて出ていくという暴挙に出ました。教師からしたらイヤな子ですよね(笑)。みんなの前で説教されたんですが、“そういう態度だと藤島高校に行けないよ”と、県でいちばんの進学校の名前を出したんです。私がその学校に行きたいと決めてかかっていることに腹が立って、3日くらい怒りがおさまりませんでした」

 自分の意志を確認もせず、頭のいい子=県随一の進学校と決めつけられることが耐えられなかった。その気持ちは非常によくわかる。

都合のいい国民になりたくない

 結局、藤島高校に入学したのだが、すぐに息が詰まるような気がしたという。もとは藩校だったその高校は文武両道を謳(うた)っており、部活は必須。しかも大学受験を視野に、授業は毎日6限までびっしりで、その後、部活がある。家の遠い彼女は帰宅時間が9時か10時。それから予習をし、十分な睡眠をとれないまま登校する日々だった。

「心身ともにつらかったですね。本来の自分がどういうキャラだったか見失ってもいました。家では両親が険悪だし、気持ちはどんどん落ちていく。とうとう高校1年生の夏休み前に学校に行けなくなり、そのまま休み明けも行けなかったんです」

 うろたえたのは両親だった。朝になると部屋に入ってきて、布団を剥(は)がそうとする。近所や親戚の目を考えると、「自慢の娘が学校へ行けなくなった」などということは、あってはならないことなのだ。

「夏休み明けは自室から出られませんでした。ずっと布団の中で寝ているか泣いているか。アトピーがひどくなって痛いのにひたすら掻(か)きまくって、患部がじゅくじゅくして。その後は抜毛症、ひたすら髪の毛を抜いていました。そのころの記憶がいまひとつはっきりはしないんですが」

 あとから分析すると、子どものころから優秀だった彼女は、勉強が好きだから勉強し、自分の能力を磨いて社会に還元したいと信じていた。そこまではまぎれもない事実。だが、ある日、ふと気づいてしまったのだ。

「私は国家にとって都合のいい国民を量産するシステムに踊らされているだけではないのか」

 目の前の壁がガラガラ崩れていくのが見えた。大きすぎる衝撃に絶望感だけが残った。