兄貴肌なのに“女性に弱い”素顔

 自身の役を徹底的につきつめる一方で、周囲への目配りも忘れない。'08年公開の『ザ・マジックアワー』の撮影では、こんなエピソードが。

「この現場に若手にとても厳しいスタッフがいて、現場でよく怒鳴ったりしていた。きっと寺島さんは、若手が萎縮してしまっていると感じたのでしょう。そのスタッフを建物のセット内の隅に呼び出して静かに注意したんです。

 寺島さんは、周囲から見えないように気を遣ってくれたのだと思います。ただ、偶然にもセットの窓の外にカメラがあり、中の様子をすべて映していて……。外につないだモニターに、寺島さんのすごい形相と、縮み上がっているスタッフの顔が映し出されたものだから、みんな震えながら見ていました(笑)

撮影では演じる役の育ち方や考え方など背景を考え抜いてアドリブを入れることもあるという
撮影では演じる役の育ち方や考え方など背景を考え抜いてアドリブを入れることもあるという
【写真】寺島進、ボンタン姿の高校時代

 撮影現場を全員が気持ちよく仕事できる場所に─。そのために、寺島は労を惜しまない。特に、 6年前に放送を開始し、'18年からは連ドラ化している『駐在刑事』(テレビ東京系)シリーズでは、主演ということもあり、現場全体に気を配っている。同作でアシスタントプロデューサーを務める宮崎美紀さん(50)が語る。

「寺島さんは、スタッフのことをとてもよく見ていて、疲れている人がいたら“がんばれよ”とか、帰り際に“今日はありがとな”と声をかけてくれる。撮影中には、寺島さんが自ら幹事になってスタッフやキャストの親睦会を開催するため、日程調整や店の予約までしてくれていたんです」

 一方で意外な素顔も。宮崎さんの実家が営むホテルでロケをやったときのことだ。

「私の母が寺島さんに“朝ごはんおかわりした?”と聞いたら、“はい! おかわりしました”と元気よく答えたので、“あら、おりこうさんねぇ~”と返したら、寺島さん、顔を真っ赤にしてモジモジしていたそうです(笑)」

 兄貴肌なのに“女性に弱い”というギャップも、寺島が周囲に愛される理由のひとつなのかもしれない。

 世の中の女性の中でも、寺島が最も“かなわない”のが、きっと17歳下の妻なのだろう。寺島は46歳のとき、一般女性と結婚している。

「カミさんはすごくまじめで芯が強い人。年下だけど俺よりもずっとしっかりしてる」

 現在は、9歳の娘と5歳の息子の父。今では育児にも積極的に携わるよきパパだが、長女が生まれたばかりのころは、撮影で長期間家を空けることが多かったそうだ。

「最初は、“男は外で稼いで家族を守る。家のことはカミさんに任せた”みたいな昭和の親父像をイメージしていたんだよね。でも、その間、カミさんはワンオペ育児で相当しんどかったと思う。次第に俺も“昭和の親父じゃいられない”って気づいて……」

 考えを改め、自ら育児本を読み、おむつ替えやミルクも担当。最初は何をやるのもおっかなびっくりだったが、慣れてくると泣き声で子どもが求めることがわかるようになったという。

「育児をやって驚いたのは、本当に息つく暇もないってこと。仕事も大変だけど息抜きする時間はある。でも、カミさんには休みがないからね」

 それに気づいてからは、24時間、365日仕事漬けだった生活がガラリと変わった。

「帰宅したら仕事モードから家庭モードに切り替えて、台本は家では読まない。それに、昔は毎晩、飲み歩いていたけど、今は仕事が終わったらまっすぐ帰ることが増えました。やっぱり家族との時間を大切にしたいから」

 先の三谷さんも、寺島に生じた変化を感じ取っていた。

「お子さんが生まれてからの寺島さんは、とても穏やかな表情をすることが増えたような気がします。“こんな表情をするんですね”と言ったら“俺だってするよ~”と笑っていました」

 寺島自身も、「最近、妙に涙もろくなってね。家族愛を描いた映画を見て泣いちゃったりする」と相好を崩す。

 だが、“子どもに役者になってほしいか”と尋ねると、途端に表情を引き締めた。

「明確な理由があるわけじゃないんだけど……。子どもたちには役者になってほしくない。俺は、器の大きな人たちとの出会いがあったからやってこられたけど、同様の出会いが必ずあるとは限らないから。どうしてもやりたいというなら、最低限のレールは敷くかもしれないけれど、“その後は自分でやれ”って言うだろうね。コネクションは自分で築くべきものだからさ」

 毅然とした言葉からは“自ら道を切り拓くことの大切さを伝えたい”という父としての思いがにじみ出ていた。