隔離生活で最も気をつけたのは息子のメンタル面

「私の人生で、いちばん長く感じた2週間でした」

 妻をホテルに送り出したあとの、息子と「陽性者2人」の自宅隔離生活を北村さんはそう振り返る。初めのうちに37度台の熱が出ただけで、2人ともほぼ無症状感染状態だったが、それでも、息子がくしゃみすると、「もしかして」と考えてしまう。熱を測るたびに、ハラハラする……。

「ホテルのシングルルームから出ずに過ごさなければならなかった妻は大変だったようですが、息子と私はなんとかそれなりに。いちばん気をつけたのは、息子のメンタル面です。息子が妻と話しながらご飯を食べられるように『リモート夕食』したり、ベランダで『焼肉パーティー』をしたり、工夫しました

 食材は、もともと備蓄していたし、同じマンションに住む友人が、玄関の前に新鮮な食材を置いてくれることもあり、助かった。息子の「学校」が8月から新学期。リモート授業が始まったので、「見守った」とも。

オンライン授業を受ける4歳の息子(北村研二さん提供写真)
オンライン授業を受ける4歳の息子(北村研二さん提供写真)
【写真】自宅でオンライン授業を受ける息子、街中の様子など

 陽性確認から16日が経った8月20日、北村さんはPCR再検査し、陰性結果が出た。

「妻が戻ってきて家族一緒の暮らしに戻れました。バンバンザイです」

 明るく話し、あと1週間ほどで出勤するという北村さんだが、インタビュー終盤に、

一緒に通勤していた同僚もドライバーさんも、私と同じころに陽性になり、感染経路は不明なんです。あんなに予防していたのに感染した。ということは、今後もずっと感染リスクがあるということでしょう? 今後、マスクの上にフェースシールドをつけようと取り寄せましたが、それくらいしか、予防を強化できることがない」

 と、声のトーンが下がる一幕もあった。

「自分にも、日本のみなさんにも、こう言いたいんです。『絶対に、過信してはいけない』と」


取材・文/井上理津子(いのうえ・りつこ)
1955年、奈良県生まれ。タウン誌記者を経てフリーに。著書に『葬送の仕事師たち』(新潮社)、『親を送る』(集英社)、『いまどきの納骨堂 変わりゆくお墓と供養のカタチ』(小学館)、『さいごの色街 飛田』(新潮社)、『遊廓の産院から』(河出書房新社)、『大阪 下町酒場列伝』(筑摩書房)、『すごい古書店 変な図書館』(祥伝社)、『夢の猫本屋ができるまで』(ホーム社)などがある。