「言霊よ、入れ」とつぶやきながら

「何もかもダメで、もう疲れ果てました、生きる意欲が湧きません」といった内容のものは、逆に生きる意欲が隠れているように思います。疲れ果てていることは確かなので、ふて寝でもいいから疲れを癒やすことが大事。「人生は慌てても仕方ないんですよ」といった返信をすると、大体の人が気持ちを切り替えてくれます。本当に生きる意欲を失っていたらツイートをしてこないでしょう。

 むしろ「死ぬ」とか、そういうことは一切言わないで、痛切な響きのツイートに死の影を感じることがあります。そんな中でも「あっ、この人にはこう言ってあげたら気がつくんじゃないかな」と思うときは返信させていただきます。「この人にはこのひと言かな」とこっちも痛切に考えますよ。この人が気持ちを切り替えて、立ち直るきっかけになればという思いを込め、「言霊よ、入れ」と本当につぶやいてツイートボタンをクリックすることがよくあります。

 何年も経って、「あのときは救われました」という声をいただくことがあります。どういう言葉を返したのか覚えていないことが多いんですけどね。それでも、お礼の声が届くと、やっぱりうれしいです。

 ツイッターでのやり取りは相手の本名も知らない。字数にも制限がある。こっちの返信にそれっきりのこともあります。すぐにお礼のツイートがきて「そのようにやってみます」とリプライをもらうこともありますが、その後の経緯はわかりません。つまり、一期一会の世界なんですよ。

 それだけに、どこのどなたかもわからない人の痛切な声に、その人の心に切り込めるような言葉を返せればそれでよしの世界。剣の試合ではありませんが、立ち会ったその瞬間で決まり、終わるものだと考えています。

 僕自身、言葉に救われた経験もあります。タイムラインをぼんやり眺めていたときのことです。「集中すると病がどこかへ逃げます」といった言葉だったかな。今、関節リウマチを患っているのですが、発症して間もなくのこと。どうしてこんな厄介な病気に、と暗く沈んでいた時期だったのでパッと心が輝きました。

 「生きづらい」世の中をどう生き抜くか。「生きづらさ」は自分の心の八方を塞ぐことです。どれか一方を開放すればなくなります。ネットを活用して、生きづらい世の中を尻目に悠々と生きる“隙間”を探すのもいいじゃないですか。今はオンラインもありますから。友と愚痴をこぼしあってもいい。ほかにも、その気でググれば答えやヒントにぶつかるものです。「求めよ、さらば与えられん」でいくことです。

志茂田景樹(しもだ・かげき)
1940年、静岡県生まれ。1976年に『やっとこ探偵』で小説現代新人賞を受賞、作家活動をスタート。1980年には『黄色い牙』で直木賞に輝き、その後も多くの著書を執筆、話題を呼ぶ。さらに奇抜で個性的なファッションが注目を集め、ファッションショーでモデルを務めたり、『笑っていいとも』のレギュラーになるなど、多くのバラエティー番組に出演して人気を博す。1998年に『よい子に読み聞かせ隊』を結成し隊長に。Kindle版『死にたいという本当は死にたくない私』が話題。