犯行に手慣れた
組織的集団が見え隠れしている

 今回の犯人像ですが、かなり手慣れた感じを受けます。ドコモ側のセキュリティの穴を見つけるのが巧みなだけでなく、不正出金するときには、1000円、1万円、10万円単位と、小刻みにお金を引き出し、総額を数十万円にするなど、不正出金がすぐにバレない工作もしています。

 一気にお金を引き出さない手口を使うところから、犯罪行為に慣れた組織的集団がうかがわれます。

 この事件から思い出されるのは、2016年に南アフリカの銀行が不正アクセスを受けて、全国のコンビニのATMから約18億円が一斉に引き出された事件です。あのときは、海外の犯罪組織と日本組織が一体となった犯行とみられていますが、今回も同様の形が考えられます。

 では、今回のような被害を防ぐために、私たちができることはあるのでしょうか?

 それはやはり、自身の銀行口座情報などの個人情報を流出させないことです。被害が起きた背景には、フィッシング詐欺(※送信者を詐称したメールを送り、偽のURLにアクセスさせることで個人情報を盗み取る行為)の横行があります。みなさんのところにも、銀行や通販サイトなどを騙って、なりすましのメールやSMSが送られてきているかと思います。

 それを本物だと思いURLをタップしてしまうと、偽サイトに飛ばされます。すると、そこには本物の銀行そっくりなページが出てきます。そして、促されるままにIDやパスワード、暗証番号を入力してしまうと、個人情報が盗まれてしまい、こうして不正に取得した情報は、闇の業者の間で売買され、それを元に今回ようなの犯行が行われてしまうのです。

 ですので、フィッシング詐欺に遭わないためにも、メールに載っているURLは決してタップせず、事前にブックマークしておいた正規のサイトからのアクセスをするようにしてください。

 また、今では銀行などあちらこちらで暗証番号を変えることがアナウンスされていますが、やはりこちらも重要になります。定期的に変えていればよいのですが、それでもまだ、同じものを使い続けていたり、使い回している人も多いのではないでしょうか。

 暗証番号は4桁ですので、誕生日などの情報から推測するのは容易ですし、パスワードに暗証番号を組み入れている人も多くいるのが現状です。手慣れた犯罪者からみれば、ある程度の情報があれば、暗証番号を推測することは簡単なのです。

 最後に、今回、地方銀行が使われたということで、気になることがあります。地方銀行となると、おそらく高齢者の口座も多くあるのではないでしょうか。

 今、詐欺の前触れ電話であるアポ電が多くかかってきています。そして、高齢者がキャッシュカードを騙し取られる被害が相次いでいます。それゆえに、警察や銀行員を騙って、詐欺の電話をかける「架け子」にとって、暗証番号や口座情報を聞き出すのは、お手のもの。そうした情報を収集・売買して、今回の被害につながっている可能性も捨てきれません。

 当然、高齢者はドコモ口座を作っていない方も多いのでしょうから、もしかすると、スマホを持たない高齢の親たちも被害に遭っているかもしれません。ご自身だけでなく、高齢の親の口座状況も確認してあげるようにしてもらえればと思います。

多田文明<ただ・ふみあき>
1965年生まれ。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。ルポライターとしても活躍。キャッチセールスの勧誘先など、これまで100箇所以上を潜入取材。それらの実体験を綴った著書『ついていったらこうなった』はベストセラーとなり、のちにフジテレビで番組化。マインドコントロールなど詐欺の手法にも詳しい。そのほか『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』など多くの本を出版、テレビやラジオ、講演会などへの出演も。