ダンプ松本さん率いた極悪同盟と、あまりにかけ離れているじゃないか。あのころの悪役は歌舞伎の悪役、ヘヴィメタのメンバーみたいな毒々しい隈取りメイクをし、常人離れした厳つくゴツい巨体に、これまたthe悪党な黒いレザーにトゲトゲした鋲やチェーンがついていたコスチュームが主流だった。

日本で一番殺したい人間と言われて

 極悪同盟にはブル中野さん、クレーン・ユウさんらもいたが、なんといってもダンプさんだ。後のメンバーは、もしかして実はいい人かもと思わせる空気や余地を垣間見せてくれたが、ダンプ極悪大魔王にそんな慈悲や甘えを乞う隙はいっさいなし。

 ともあれ、『有吉反省会』は出演者も多く収録時間もそんな長くはなく、ダンプさんと同じ空間にいただけで、直接のやりとりはできないままに終わってしまった。でも伝説の人に会えた、青春時代を彩ったスターを目の当たりにできたと、満足していた。

 それから少したって、親しい編集のYさんに、ダンプ松本さんについて書きませんかといわれたのだ。資料もいろいろもらって読み、なつかしい時代がよみがえった。

 実際は2度目でも、これが初対面といっていいインタビューの場は主婦と生活社の会議室で、ダンプさんはまったく悪役ではなかった。

 どう見てもいい人なので、あの悲しすぎる死を遂げた若手レスラーのように、現役時代は悪役であることに葛藤があったと思ったのに。

左から 長与、ダンプ、ライオネス飛鳥(当時は北村智子)
左から 長与、ダンプ、ライオネス飛鳥(当時は北村智子)
【写真】おでこに「極」の文字!極悪同盟時代のダンプ松本

「いいえ、全日本女子プロレスの門を叩いたときから、徹底的に悪役になってやろうと決めてましたから。罵声を浴びれば浴びるほど奮い立ち、大嫌いといわれればいわれるほど高ぶりました」

 ふと、みずから命を絶ったあの純な若いレスラーにも、この強さがあればと泣けた。もう、どうしようもない。強靭な肉体、恵まれた体力を持つ人は、中身も同じようにタフだと勘違いされる。もちろんタフであるが、生身の身体と心は柔らかくもあるのだ。

「本当はいい人なんて、絶対に思われたくなかった。だからファンサービスなんか、いっさいなし。クレーンはそれをやりたがったんで、辞めてもらったくらいです」

 ダンプさんはそんなだから、実家に石を投げられたり車を傷つけられたり、街なかでも罵声を浴びせられ、服を買いに入った店の人に、来ないでといわれたりした。

「当時、日本で一番殺したい人間と言われてました」

 そんなことを言われてもなお悪役を貫ける人なんて、やっぱりダンプ松本以外はいない。今後も強烈な存在感を放つ悪役は出てくるとしても、本気で殺したい、とプロレスファンに思わせることはできないだろう。