では、仮に「日常の足」が3割減のままだったとして、鉄道経営は成り立つのだろうか。

 京王電鉄の運輸業は、新型コロナウイルスの影響がない2018年度の実績で、営業収益は鉄道が861億円、バスが345億円で、運輸業全体で1,322億円だった。営業利益は、鉄道が116億円、バスが25億円で、運輸業全体で147億円である。

 ちなみに、京王電鉄の運輸業はバスの割合が大きく、しかも利益を上げているのが特徴だ。

 その京王電鉄では、今年度の第一四半期(4~6月)に鉄道とバスの営業収益が約47%減となり、運輸業全体で76億円の赤字となった。3割減だった6月でも赤字ベースである。鉄道は固定費比率が高いので、利用者が減ると一気に採算が悪化する。

 利用者からすれば、これまでの満員電車は非人間的で、現在の混雑状況があるべき姿と言いたいが、それでは鉄道会社の採算が合わない。言い換えると、あの朝夕のラッシュがあればこそ、これまでの鉄道経営は成り立っていた。

京王電鉄の強みと安心材料

 現在の状況は危機的だが、これは京王電鉄に限ったことではない。むしろ京王電鉄の場合、他社よりも安心できる点がある。

 京王電鉄の自己資本比率は42.6パーセント(2019年度末)で、小田急電鉄が29.1パーセント、京浜急行電鉄が30.0パーセントということからもわかるように、鉄道業界の中では安全性が高いことがわかる。

 京王電鉄は、運賃が比較的安いことでも知られている。新宿~多摩センターでは、競合する小田急電鉄より50円安く、新宿~八王子では、同じく競合するJR東日本よりも120円も安い。採算を改善させる伝家の宝刀は、やはり運賃の値上げである。簡単には抜けない宝刀だが、京王電鉄の場合、他社に比べれば抜きやすい。

 地味に見える京王電鉄だが、知られざる大きな特徴もある。新宿副都心にある京王プラザホテル(新宿)の存在だ。

 新型コロナウイルス前の2018年度、京王電鉄の「レジャー・サービス業」は営業収益の16.3パーセントを占めて、営業利益でも16.8パーセントを占めた。同社は、他社とは異なり、全国にゴルフ場やスキー場を展開するディベロッパーではない。それでも「レジャー・サービス業」が事業の柱になっているのは、まさに驚くべきことである。

 その中でも、営業利益の85.5パーセントを占めるのはホテル業で、そのホテル業の中でも、営業収益の約半分を占めるのが京王プラザホテル(新宿)だ。

 インバウンドを追い風に、多くの鉄道会社でホテル業に投資している。どの鉄道会社も、人口減少に直面する中、成長分野を見つけるのに必死である。京王電鉄も、宿泊特化型ホテルを沿線外に積極的に展開してきた。それまでの事業展開が沿線中心だったので、その思いの強さが伝わる。