横審は理事長の言葉を聞いてないのか

 そんな中で横綱だけでなく、力士たちの休場も相次いだ。

 新型コロナウイルスの集団感染が場所前にわかった玉ノ井部屋が部屋全員で休場したほか、感染予防のために稽古環境が整わず、また7月場所から1か月半での開催で調整期間が短かったこともあってケガも多く、場所の最終盤には休場者が70人以上に登った。

 そうした特別な場所開催に際して、千秋楽での「協会ごあいさつ」で八角理事長はまず、新型コロナウイルス感染者とその家族へのお見舞い、さらに医療従事者たちへの感謝を述べてから、

「本日、無事に千秋楽を迎えることができましたのも、ひとえにみなさまの温かいご支援と、観戦対策にご対応いただきましたお客さまのご協力の賜物と厚く御礼を申し上げます。力士たちは先場所に引き続き、みなさまの心のこもった拍手をじかに感じて立派に土俵を務めてくれました」

 と、観客と力士双方への感謝と尊敬を表した。

 横審のみなさまは、理事長のこの言葉を聞いていたのだろうか? 聞いていたとしたら、そんな発言になるなんて、私にはとても思えないのだが。

コロナ禍の開催となった、令和2年の大相撲九月場所(著者撮影)
コロナ禍の開催となった、令和2年の大相撲九月場所(著者撮影)
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 前述した相撲ファンの、生きてるだけで大変な毎日の中で、生きるよすがが横綱だというツイートを、審委員のみなさまにも知ってもらいたい。そういう相撲ファンは大勢いるし、私もそのひとりだ。

 コロナ禍にあって、8月には自殺者が急増した。これからどうなっていくか全く見えない。仕事や家がなくなり、「住居確保給付金」の拡充と改善を、支援団体が求めているような状態だ。

 そもそも11月場所が開けるのか? それだって、まだ誰にもわからない。そんなときに労いの言葉ではなく、次は引退勧告するかもよと臭わせるなんて。そりゃ真剣勝負のプロ・スポーツに厳しさが求められるが、横審の意見には一貫性が見られず、丁寧に内規を踏まえているようにも思えない。それに興行でもある大相撲を支えるファンの気持ちを想像してほしい。

 安定した仕事があり、明日のお金に困らない名誉職の方々、もう少し庶民の気持ちを考えてください、とお願いしたい。


和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。