名作ドラマ『うちのホンカン』『岸辺のアルバム』(ともにTBS系)や、1987年の映画『ハチ公物語』、2013年公開の『くじけないで』……数えきれないほど多くの作品に出演し、老若男女問わず誰からも愛された大女優・八千草薫さんがこの世を去ったのは、2019年10月24日のこと。

「膵臓がんを患われて。それでも治療を続けながらドラマや舞台で主演を務めていました。亡くなる前もテレビ朝日系の『やすらぎの刻~道』にも出演されてね。女優という仕事に向き合い続けた方でした」(テレビ局関係者)

 その八千草さんが亡くなる直前、2019年5月に上梓したのが、34編からなるフォトエッセイ『まあまあふうふう。』(主婦と生活社)。八千草さん最後の著書である本書には、“収録されるはずだった”幻の原稿があった。担当編集者が振り返る。

本が完成する前、原稿を見返していた八千草さんが“やっぱりこの話は恥ずかしいわ……おのろけがすぎるみたいで”とおっしゃられて。素敵なお話だったのですが、結局“これは八千草さんとご主人だけのエピソードにしておきましょう”ということに」

未公開エッセイに夫婦の真実が

 その未公開エッセイを週刊女性は入手。一周忌にあたり特別に掲載する。章タイトルは“腹がたったら、寝る”だ。

《主人とは、26歳で結婚してから50年、一緒でした。でもその間、ケンカをした記憶がほとんどありません。よく「ケンカするほど仲がいい」と言いますけれど、私と主人は歳が離れていましたから、ケンカをしないというよりも、そもそもケンカにならないという感じでした》

 “主人”とは映画監督の故・谷口千吉さんのこと。八千草さんと谷口さんとは19歳の年の差があったが、結婚以来、2007年に谷口さんが先立つまで50年もの間、文字どおり“おしどり夫婦”だった。

《それでも生活をしていると、時々「納得いかないなぁ」ということもでてきます。でも、私はなかなか言い返せないたち。言いたいことがあっても、面と向かって自分の考えを言えなくてモヤモヤします。そうすると気持ちが疲れてしまうのですね。だからそういう時は、寝ちゃうんです。サッと自分の部屋に行って壁にもたれてそのまま。眠って翌朝起きると、不思議とすっきり気持ちがいいんです》

 そんな八千草さんに、谷口さんは「うるさいなと思ったら、ケンカして寝かせればいいんだから楽だね」と、よく冗談を言ったという。