お笑いへの熱い思いと
厳しすぎるほどの自己評価

 “アイドル芸人”の時代を経て、現在もテレビで活躍している向井。しかし、彼の苦悩は続く。向井はしばしばバラエティー番組での自分は「面白くない」と端的に言う。そして、テレビのバラエティー番組が好きで芸人になったという彼は、そのお笑いへの愛の深さゆえに、「面白くない」自分は番組に必要ないとさえ感じてしまうという。

「バラエティー好きが一番就くべき仕事は、芸人ってボクは思ってるんで。でも、お笑い好きの向井で言うと、ゴリゴリのお笑い番組に別に向井いらないんですよ。でも、職業としては出たい。その葛藤と常に戦ってる」(『アメトーーク!』2019年5月30日)

 現在、『アメトーーク!』や『あちこちオードリー』といった番組を筆頭に、テレビのバラエティーでは番組の裏側や、その中での葛藤などを芸人が語る企画が多く放送されている。向井はそういった企画に呼ばれることが多い。テレビやお笑いへの熱い思いと客観的な視線を併せ持った彼のトークには、確かな説得力があるためだろう。

 しかし、もともとボケ役を目指して芸人になった彼は、そんな自身の現状にも批判的な目を向ける。

「こういう裏側話す系(の番組)でシャシャってる向井も嫌いなんですよ。こんなとこで目立つ芸人になりたいと思って入ってきてないじゃないですか、本来。一生満たされない気持ちで芸人やってるんすよ、いま」(『あちこちオードリー』2020年8月25日)

 世代交代の中での自身の立ち位置の変化にも敏感だ。かつてアイドル的な人気で番組に出演していたころ、“可愛い”とイメージづけられていた彼は、“ブサイク”な先輩芸人のフリに使われることが多々あった。当時を振り返り、彼は自分が先輩の笑いのための「道具」として扱われていたと語る。

 年月が流れ、第7世代が台頭。霜降り明星が一足飛びにMCに抜擢され、自身がその番組でロケに行くことになった。そんなとき、スタジオに向けて「粗品、面白くしてね」などとVTRで自虐気味に投げかける向井。彼は当時を振り返り、「やっぱ、ツーッと(涙が)」と少し冗談を交えながら語る。しかし、その悔しさの意味は後輩の後塵を拝しただけではない。彼の心情は、さらに複雑だ。

「結局俺が『粗品、面白くしてね』って言うことは、粗品を道具にしてる先輩になってしまったっていう。俺が一番嫌だった先輩にもなってるっていう悲しさで、いろんな涙が出ちゃった」(『あちこちオードリー』同前)

 向井には日課がある。毎日、仕事終わりに喫茶店に寄り、その日の反省点などをノートに記録しておくのだという。そんなルーティンに象徴される彼の客観的な視線は、周囲だけでなく自分にも向けられる。その自分に向けられた視線は誰よりも的確で、それゆえに誰よりも容赦なく、深くまで届く。