特に大きな貢献をしたのが、2000年に施行された介護保険法だ。樋口さんは母親や夫を介護した経験から、社会で支え合う制度の必要性を痛感していた。ところが、法案の骨格を検討する政府の審議会に参加すると、各地方を代表する県議や市議などから反対意見が相次いだ。

「介護は家族がやればいい。嫁の役割だ」

 樋口さんは保守的な反対派を“草の根封建親父連合”と名づけ、テレビなどマスコミを通じて世論に訴えた。

「審議会でも少子化のデータを見せて“時代は変わりました”と繰り返しました。でも伝統的な家父長制が好きな草の根封建親父連合は毎回、ああ言えばこう言うで、あまりの根強さに“えー、これ負けるかも”と思ったこともありましたよ」

 ときおりユーモアを交えてよどみなく話す。にこやかな笑顔も相まって、とても元気そうに見えるが、身体は満身創痍だ。

「ヨタヘロだからこそ、地域を愛し、仲間をつくり、どんどん外へ出よう!」と樋口さん 撮影/佐藤靖彦
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『老〜い、どん!』を出版

 子どものときに急性腎臓炎と結核を患い、娘を妊娠中は重症のつわりで半年間入院した。66歳で乳がんの手術を受け、胸腹部大動脈瘤の手術後は肺活量が同年代女性の6割まで減った。

 変形性膝関節症で外出時は補助具をつけており、歩くスピードはゆっくりだ。80代に入ると、ひと息で300メートルも歩けなくなった。検査すると、ひどい貧血だった。食事作りが面倒になり栄養失調に陥っていたのだ。

 そんなヨタヨタヘロヘロの状態を“ヨタヘロ期”と命名。自身のヨタヘロ体験をつづったエッセイ集『老~い、どん!』を昨年末に出版した。

「以前からヨタヘロのお年寄りを見かけてはいたけど、自分に襲いかかるまでわからなくて、ああ、こういうことだったの。気がつかなくて、ごめんなさいね~って(笑)」

 厚生労働省の統計(2016年)によると、自立して生活できる健康寿命は男性72・14歳、女性74・79歳。平均寿命が男性80・98歳、女性87・14歳。この健康寿命から平均寿命までの間にあたるのがヨタヘロ期だ。男性が約9年、女性では約12年もある。

 健康寿命を延ばし、ヨタヘロ期を少しでも快適に乗り切るためには、十分な食事、適度な運動、そして外に出て人と触れ合うことが大切だ。

 だが、老いるとトイレは近くなるし、疲れやすくなる。樋口さんは自分が外出先でトイレやベンチを探し回った経験から、「清潔で安全なトイレが各所に欲しい」「休めるよう街角にベンチを」と訴える。

「『老~い、どん!』を読んだ方から、老いに対する心構えができたとか免疫力がついたと言われて、とってもうれしかったです。老いの哀しみやつらさがなくなるわけではないけれど、あんまり悲愴にならずメソメソしないで生きていく力になればいいなーと。人生100年時代の初代として、『ヨタヘロ期』を生きる今の70代以上は、気づいたことを指摘し、若い世代や社会に向けて問題提起をしていく責任があると思います」

 本が話題になり講演の予定が多く入っていたが、コロナ禍でほぼキャンセルになった。シンポジウムや審議会はオンラインで開催されるようになり樋口さんも何度か参加したが、「雑談もできないし一方通行みたいで、なーんか面白くないのよ」と不満顔だ。

 対面とオンラインを併用する場合、できる限り会場に足を運んでいる。雑誌の連載も抱えており、とても88歳とは思えない忙しい日々を過ごしている。

 そのバイタリティーはどこから湧いてくるのかと聞くと、思わぬ返答が返ってきた。

「練馬の野育ちだからでしょう。お姫様じゃないもの、私。近所の子と家から離れた場所で遊んでいても、風に乗ってお前の声だけが聞こえてきてうるさいと、父にいつも怒られてましたから(笑)」