「配信限定シングルであるこの曲が、CD売上の指標なく、年間1位というところはすごいです。瑛人の『香水』も、火がついたのはTik Tokの歌ってみた動画からで、CDも発売されていますが、曲の浸透度からすると売上枚数はやや少ないような感覚もあります。日本の流行音楽市場のありかたが、完全に変わった転換点の年になるのではないでしょうか」

購入者=売上枚数ではない

 CDの売上枚数と、曲の浸透度の乖離は、以前から指摘されていた。CDは売れているのに曲の認知度がイマイチ低い場合には、どんなことが考えられるのだろうか。ある芸能ジャーナリストは語る。

「90年代には、カラオケ人気などと相まって、ミリオンセラーが連発するような時代もありました。やがて、CD離れが進んだため、2000年代の後半からCD購入者を対象にした握手会などの特典付きが増え、大量購入する人が増えました。特典目当てでなくても、応援するアーティストの名誉のために、また記録作りのために一人で何枚も何十枚も買うファンもいます。それがこの数年で一層、顕著になってきたと思います

 夜の商売人の売り上げを伸ばしてあげたいと、たくさん注文してあげるお客さんと同じ構図というわけだ。

 純粋な売り上げだけでなく、配信や動画サイトから巷に浸透するヒット曲が生まれることが増えている理由には、一体どんなことがあるのだろうか。前出のジャーナリストによると、新型コロナウイルスの感染拡大もあるのではないかと言う。

ステイホームや自粛の影響で、CDショップが一時営業を取りやめたり、営業時間の短縮を行いました。欲しいCDがあったときに、実店舗でなくネット通販を利用する人も増えました。ネットでの購入を『ポチる』といいますが、ポチってCDが届くのを待つより、ポチってその瞬間にダウンロードできて聴けるほうが圧倒的に早くて楽チン。動画サイトも然りです。なので、配信や再生数の指標のほうが、実際に親しまれている曲が多くなるのはそういう理由もあるのでは」

 CDの売り上げを伸ばした、嵐の『カイト』やAKB48の『失恋、ありがとう』より、ぶっちゃけ YOASOBIの『夜に駆ける』やLiSAの『紅蓮華』に瑛人の『香水』を知っている人のほうが多いのでは!?

〈取材・文/渋谷恭太郎〉