同時に高卒認定試験に合格し、車の免許を取り、介護の資格も得た。彼は努力家なのだ。そしてすぐにハローワークから紹介された介護職に就く。だが、1か月しかもたなかった。

「利用者や同僚と緊密な関係を築かないといけないんですが、それができなかった。職場の人たちはいつもイライラしているし……」

 介護職は慢性的に人手不足なので、ひきこもりから脱した人がよく紹介される職場だ。ただ、介護職ほどホスピタリティーを求められる業種もない。人間不信になってひきこもっている人たちが、新たな世界を求めたときに適している職場ではないだろう。当事者の背景をまったく考えていないのではないだろうか。

ひとり暮らしで人生を再スタート

 24歳で実家を出て、あまり人と接することのない製造業の仕事をしながら、ひとり暮らしを始めた。この仕事は彼に向いていたようだ。

「子どものころから貯めていたお金で、敷金礼金などを払いました。最初に住んだのは家賃2万9000円の狭い木造アパートで、エアコンもなかった。それでも誰とも顔を合わせずに生活することができる。僕は解放されたんだ、自立して生きていくことができるんだと感慨深かったですね」

 そこが彼の人生のスタートだったのだろう。以来、今に至るまで、家族とは没交渉だ。

「だからといって親を恨んでいるわけではないです」

 彼は繰り返し、そう言う。住むところも食べるものもあった。コンピューターも使っていたし、面倒もみてもらった。産んでくれなければ存在しないので感謝している、と。

「でも、そう思えるようになったのは30歳を過ぎて、ひとりでも生きていけると思うようになれたから。それまでは不幸な人生を送っていると思っていたし、不幸の原因は親が僕を虐待したり放置したりしたからだと強く恨んでいたんです」

 彼がどんなに苦しんできたのかが伝わってくる。なぜいじめで苦しんでいる子どもに、誰かじっくりゆっくり話を聞こうとしなかったのだろう。

「僕にとって、あの10数年は何もしていない空白の時期。世間を知らないから、同年代の人と話が合わない。ひきこもっていたことはバレないように隠しているし、変だなと思われないようにするのが大変なんです。いじめられたトラウマは残っていて、新しい職場に行くたび、またひどい目にあうかもしれないと怖くなる」