春風亭一之輔  (c)キッチンミノル

 エンタメ業界をも容赦なく襲う緊急事態宣言。平時はのんびりした面々が集まる落語界も、安全地帯でぼんやりしてはいられない。

「(仕事キャンセルの連絡が)もう3、4件きましたね。地方の落語会から連絡が届いて、先々の予定が中止になっています。これからまだきそうですけどね、昨年のコロナ禍では125件のキャンセルがありましたから」

「どんと来い」の心持ちでそう明かすのは、落語家の春風亭一之輔(42)だ。

ぬか床作りやオンライン配信にも挑戦

 本業以外にも、ニッポン放送のレギュラー番組でしゃべり、『日経新聞』『産経新聞』『週刊朝日』で連載原稿を書き、ワイドショーではコメンテーターとして、やんわりと世相を刺したりする。

 緊急事態宣言が出された直後の1月11日から20日まで、東京・上野鈴本演芸場の昼席でトリ(=最後の演者)を務めている。

「なかなか今、“寄席に来てください”と言いにくいところはありますが、いつもどおりにしゃべります」

 と言葉ににじませるのは、日ごろから見せる脱力感だ。

 都内には上野鈴本演芸場をはじめ、浅草演芸ホール、池袋演芸場、新宿末広亭(五十音順)という4軒の定席(いつも開いている寄席)がある。

 正月興行(元日~10日までが初席。11~20日までが二之席)に顔付け(=ブッキング)されるのは、三遊亭小遊三(73)や、春風亭小朝(65)、春風亭昇太(61)、柳亭市馬(59)といった”落語界の顔”ばかり。若手のひとりとして一之輔が顔付けされていることは、寄席演芸界の次世代を担う逸材として期待されていることを意味する。

 2度目の緊急事態宣言となる今回、寄席は日ごろから行っている入場制限、検温・消毒などの対策に加え、しまい(終演)の時間を20時に繰り上げることで対応するが、昨年は木戸(出入り口)が閉まるという事態に見舞われた。

 原稿執筆やラジオ出演などの仕事はそのまま続いた一之輔だが、在宅時間は増えた。

「ステイホームのときは、散歩をしたり、カミさんと担当わけしてメシを作ったりしました。(料理は)普段やらないんですけど、クックパッド(料理サイト)を見ながらやりました。あと、ぬか床も作りましたね」

 そのさなかのこと。一之輔は、10日連続の「オンライン落語配信」に挑み、話題を集めた。頼りになったのは、2019年7月から所属しており、タレントの中川翔子や“お笑い第七世代”のトリオ『四千頭身』らを抱える芸能プロダクション・ワタナベエンターテインメントの下支えだ。

「撮影や編集のプロ、デジタル班の人がそろっているんです。技術的なことは任せないと、(落語家では)できないですよ」と、裏方のありがたさを称(たた)える。

 10日間連続で20時過ぎに実施した生配信には連日1万人を超えるアクセスがあり、手ごたえを得た。

「“臨場感があって楽しかった”という声は、お客さんからも届きました。オンラインで初めて聞いて、そこから落語会に来てくれたお客さんもいらして、すそ野が広がったというメリットはありましたね」