口まわりの筋力が低下する『オーラルフレイル』。むせる、こぼす、口の中が乾くといった状態を放置しておくと、心身の健康寿命を縮める事態に! 注意すべき予兆と改善エクササイズを紹介します。

※写真はイメージです

むせる、食べこぼすが寝たきりへの入り口!

 生涯、健康を保つために口から食事をとることは大きな意味をもつが、今、口の働きについて一歩進んだ考え方が注目されている。

「これまでは80歳で自分の歯を20本以上保つなど、歯の維持を中心に考えられてきましたが、これからは“食べる機能の維持”が重要です」

 と話すのは、東京都健康長寿センター歯科口腔外科部長の平野浩彦先生。

 食べる機能=口腔機能が注目されるようになったのには、大きな理由がある。高齢になれば誰しもが、筋力や認知機能、コミュニケーション力などが衰えてくるもの。この衰えのことを「フレイル」というのだが、老化によるさまざまなフレイルは、“口の機能の衰え”が引き金になることが多いのだ。

「口の衰えは“オーラルフレイル”といい、全体的なフレイル進行の前兆。例えば、かたいモノが食べにくい、汁物でむせる、口の乾きが気になる、食べこぼしが多い、滑舌(かつぜつ)が悪くなった、などがあれば要注意。初期老化の重要なサインなのです」(平野先生、以下同)

 いずれも、ささいな症状ゆえに、年だからしかたないと放置しがちだが、やわらかいものばかりを食べれば、さらに口腔機能は低下し、偏った食事で栄養不足を招く。やがて心身にも悪影響をもたらし、気持ちの落ち込み、社交性の減少、ひいては要介護へ……と負のスパイラルへと陥る。

 東京大学で行った調査では、オーラルフレイル群は、身体的フレイルが2.41倍、要介護認定が2.35倍、筋力が低下し寝たきりの原因になりやすいサルコペニアは2.13倍、総死亡リスクが2.09倍という結果に。

「飲み込む力などは、50代から落ち始めます。大切なのは衰えの兆候を見逃さないこと。歯ごたえのあるものを食べ、口のエクササイズを習慣化するなど、衰えに対抗する意識が大切です」

 またオーラルフレイルは、2018年から口腔機能低下症という疾患名で保険診療の対象となった。罹患(りかん)している割合をみると、65歳~69歳で3割、75歳以上で4割と年齢とともに増えている。気になる症状があれば、歯科医院で噛む力や滑舌具合などを測り、客観的な診断を受けることが可能だ。

「“健康で長生き”を叶(かな)えるためにも、オーラルフレイルに早く気づき、積極的に予防や改善に努めましょう」

【自分でできるオーラルチェックリスト!】
□ 半年前と比べて、かたいものが食べにくくなった(はい2点/いいえ0点)
□ お茶や汁物でむせることがある(はい2点/いいえ0点)
□ 義歯を入れている※(はい2点/いいえ0点)
□ 口の乾きが気になる(はい1点/いいえ0点)
□ 半年前と比べて、外出が少なくなった(はい1点/いいえ0点)
□ さきイカ・たくあんくらいのかたさの食べ物を噛むことができる(はい0点/いいえ1点)
□ 1日に2回以上、歯を磨く(はい0点/いいえ1点)
□ 1年に1回以上、歯医者に行く(はい0点/いいえ1点)
(※歯を失ってしまった場合は、義歯などを適切に使ってかたいものをしっかり食べることができるよう治療することが大切です。)

合計点数が
0~2点:オーラルフレイルの危険性は低い
3点:オーラルフレイルの危険性あり
4点以上:オーラルフレイルの危険性が高い
(※出典:東京大学高齢社会総合研究機構 田中友規、飯島勝矢)