「透明な容器」として役者に向いている

 吉田さんは長瀬の俳優としての魅力をこう分析する。

あれだけ濃い顔立ちに完璧なルックスなのに、“男としての弱さや幼さ”を前面に出すのがあまりに上手すぎて、“自己評価が低い”と思わせる。そこが俳優としての魅力ではないかと思います。“弱みを見せない正義の味方”が活躍しがちな日本のドラマで、しかもジャニーズ事務所の所属とくれば、大方は“賢くて特異な才能をもっていて、必ず周囲から一目置かれる存在に描かれる”わけですが、長瀬は別格というか別枠で描かれることが多い。

 しかも“よく泣く”。男泣きとかむせび泣きとかそんなカッコいい泣き方ではなく、顔をゆがめておいおい泣く、みたいな。みっともなさと情けなさが満タンの泣き顔が多いです」(吉田さん)

 完璧に見えても誰だって欠陥を持っている、長瀬はカッコよさを封印してそんな“人間らしさ”を表現するのが誰よりもうまい。だから共感を呼び、愛されるのだろう。

「けっしてセリフ運びが素晴らしいとか活舌がいいとか、技術的なことが褒められる人ではない気がします。自己評価が低いぶん、“透明な容器として役者に向いている”という話。芸能人、ましてやジャニーズといえば、“俺が俺が”と目立って光って輝いて、がナンボの世界ですよね。その中で“何者でもない自分”というのが、すがすがしくて気持ちいいのかも」(吉田さん)

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「親の介護」という等身大のテーマに挑む

 5年ぶりに宮藤とのタッグが実現した『俺の家の話』。ピークを過ぎた長瀬演じるプロレスラーが、能楽の人間国宝である父(西田敏行)の介護のために現役を引退し、名家の長男として家族と謎の女性ヘルパーを巻き込んで介護と遺産相続を巡るバトルを繰り広げるというストーリーだ。

「もともと、役柄に対してはビジュアルの細部までこだわりをもつ長瀬さんですが、今回はプロレスラーの役作りで体重を12キロも増やしたというのだから、並々ならぬ気合いが見てとれますね」(テレビ誌ライター)

 42歳、人としての深みが増してきた長瀬が「親の介護」という等身大のテーマでどう立ち回るのか、吉田さんも期待を膨らませる。

「親の介護が必要になったとき、自分は、家族はどう対処するのか。そこには悲劇も喜劇もありますし、愛憎もあります。きれいごとではない話になるだろうな、でもお涙頂戴にはならずに笑わせて、意外なところでホロリとさせてくれるだろうなと期待しています」(吉田さん)

 過去に長瀬は、インタビューで俳優としての矜持をこう語っていた。

《けっして適当になんてできない。身を削ってでもやり遂げる責任が、自分をはじめとして送り手側にはある。そういう気持ちは常に忘れないようにしてきたし、これからも変わることはないです》(『SKYWARD』'08年12月号)

 これが俳優として最後の作品、とならないことを願うばかり。『俺の家の話』での長瀬智也の演技が、楽しみで仕方ない。