軽乗用車が見つかった富山新港は旧海王丸パークがあった場所で、屋敷さんら2人は、廃墟へ行く前に立ち寄っている。その後、魚津市に入ったところまでの足取りはつかめていたが、2人は再び同パークに引き返したということだ。

「魚津市にいる」とポケベルでメッセージを送ったのは午後10時過ぎ。仮に肝試しに行っていたとしたら、同パークに再び着くのは深夜だ。そこに現れた男性3人から声をかけられ、車で転落した、というのが失踪の顛末である。

目撃した3人の男と一致する都市伝説

 冒頭の掲示板の噂と同じく、男性3人の目撃談というのがやはり、ひっかかる。ネットには“地元のスナックでこの事件に関わった男が少女の霊に悩まされているという話をしていた”という都市伝説が数多く出回っており、彼女たちが目指した心霊スポットになぞらえて“神隠し事件”などと呼ばれていた。それによると、今も怯えて暮らす男は3人と人数は一致している。さらにその話を「警察に通報した」と書いているものもある。はたして都市伝説なのか、事実なのか。

 富山県警少年女性安全課の担当者は取材に対し、こう回答した。

「目撃者とされる者については複数回の聴取を行った。何らかの理由で車が海に転落したのはわかっているが、現時点では事件性を疑う状況は確認されていない」

 つまり事故の可能性が高いということだ。とはいえ男性3人は、目の前で女性2人が溺死した可能性があるにもかかわらず、20年以上も警察に連絡せず、放置していたことになる。そのせいで真相究明が遅れたばかりか、遺族は長年、娘の安否を気遣い続けた。

 男性3人の証言について、屋敷さんの父親は、週刊女性の取材にこうきっぱり言った。

「全く信用していません。3人が誰かも知りません。警察に聞いたけど、それは教えられないと」

 では捜査継続を希望しているのだろうか。父親は続けた。

「それも警察に伝えたけど、確たる証拠はないから対応できないと。納得するも何も、もう過ぎたことやから、それでよしとせんとあかんのやって。娘はそれだけの人生だったんやなあと……」

 富山県警の担当者は「今後必要に応じて捜査をしていく」と説明しているが、父親が納得する日は、はたして訪れるのだろうか。


取材・文/水谷竹秀
ノンフィクションライター。1975年、三重県生まれ。上智大学外国語学部卒業。カメラマンや新聞記者を経てフリーに。2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で第9回開高健ノンフィクション賞受賞。近著に『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社文庫)など。