顎の形は男性の力強い意志と実行力の象徴

 顎の形も、とくに欧米社会では男性の力強い意志と実行力の象徴となっている。だからアメリカの映画や劇画のヒーローは、顎が角張り、オトガイ(下顎の先の突出した部分)が割れていることが多いのだが(図2)、最近の日本のアニメの登場人物には、細長い逆三角形の顎が多いのは気になってしまう。

図2:アメリカのヒーローのオトガイ 割れたオトガイが強調されている(図は「キャプテン・アメリカ」) 出典/馬場悠男『「顏」の進化』(講談社ブルーバックス)
【写真】顔の性差の違いがはっきりしたトム・クルーズとニコール・キッドマンの鼻を交換すると

 私などはそこに、何とも不健康な幼児性が感じられてならないのだ。なお、男性のオトガイが幅広いのは、女性に比べるとはるかに太い喉頭(いわゆる「のどぼとけ」のところにあり、咽頭と器官をつなぐ器官)を圧迫しないためと見なされる。

 一般には男性の髭も、性的魅力になると考えられていることは繰り返し述べてきたが、髭の濃さは個人によって、あるいは集団によってずいぶん違うのはなぜだろうか。原因の一つは、性的魅力と感じるかどうかが、個人によって、あるいは集団によって違うということなのだろう。もう一つは、寒冷適応の一つとして、北東アジア人では髭が少なくなったことだろう。それでも西アジア人とアイヌの人々に髭が多いのはなぜなのかは、うまく説明できない。

 なお、歯の大きさは、男女によってわずかしか違わないので、性的魅力とはならない(むしろ顎が小さい女性のほうが、歯並びが乱れることが多い)。

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 そのほか、『 「顔」の進化』では顔の不思議をさまざまな視点から解説している。角度や表情による違いについては、別記事《あなたは横顔で他人を見分けられる? 「アジア人には横顔がない」理由》で詳しく紹介する。

馬場悠男著『「顔」の進化』(講談社ブルーバックス) ※記事内の画像をクリックするとamazonのページにジャンプします 

馬場悠男(ばば・ひさお)
人類学者。1945年東京都生まれ。国立科学博物館名誉研究員。1968年東京大学理学部生物学科卒業。獨協医科大学助教授を経て1988年国立科学博物館主任研究官、1996年同人類研究部長および東京大学大学院理学研究科生物科学専攻教授を併任。人類形態進化学を専門とし、ジャワ原人の発掘調査に長年取り組む。国立科学博物館の特別展を数多く企画するほか、NHKスペシャル「地球大進化」「病の起源」「人類誕生」など多くの科学番組を企画・監修。著書は『ホモ・サピエンスはどこから来たか―ヒトの進化と日本人のルーツが見えてきた!』(KAWADE夢新書)、『顔を科学する!―多角度から迫る顔の神秘』(共著=ニュートンプレス)など、監修書は『ビジュアル 顔の大研究』(丸善出版)など多数。