過去記事でも報じてきたように、日本は柔道での死亡事故が多発してきた世界で唯一の国だ。世界中、日本以外の柔道強豪国での死亡事故はゼロだが、日本ではスポーツ振興センターの記録が残る1983年度から現在まで中学校・高校の学校内における柔道事故で121人が亡くなっている。しかも部活動中などに死亡するといった重大な事故が起きても顧問への重い処分はなく、そのまま指導を続けているケースも少なくない。

 ところが今回、全日本柔道連盟(以後、全柔連)は宝塚市の加害顧問に「除名」という最も重い処罰を科した。日本の柔道を取り巻く環境は、確実に変わり始めている。

2月9日、全柔連を訴えていた裁判で東京地裁にて和解した後に会見する石阪さん。右は代理人の宮島繁成弁護士(写真:筆者撮影/東洋経済オンライン)
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 宝塚判決が出る前の2月9日には、福岡市の親子が、指導中の事故をめぐり全柔連を訴えていた裁判で和解が成立した。被害男性の父親である石阪正雄さん(50)は「宝塚市の裁判とともに、日本の柔道にとってターニングポイントになるのではないか。柔道の指導現場が正常化する道筋を見守りたい」と前向きだ。

 石阪さんは、和解の条項として「暴力の根絶に努める」「通報を受けたとき、双方の意見を十分に聴取する」「改善に向けた取り組みの内容をウェブサイトに掲載するなどして透明性を持たせる」などを全柔連に求めてきた。

柔道初心者だった中2長男が「片羽絞め」で失神

 中学2年生だった石阪さんの長男は柔道を始めて間もない2014年10月、指導者から首を絞める「片羽絞め」の技を二度にわたって受け、一時的に意識を失った。

 休んでいると、指導者から「誰に断って休んでいるんだ」と叱られ、別の指導者からも「演技がうまいね。そんな演技をしているんだったら学校に言いふらしてやる」と怒鳴られた。その後、「迷走神経性失神及び前頸部擦過傷」との診断を受けた長男は、失神のショックで柔道ができなくなった。

 石阪さんは、相談した福岡県柔道協会に適切な対応を受けられなかったことから、2014年12月、全柔連の内部通報制度「コンプライアンスホットライン」に通報した。ところが、全柔連は石阪さん親子、指導者や当時柔道場にいた他選手への聞き取りといった調査を十分にしないまま、同県柔道協会の報告に従って「問題なし」とした。

 これを受け、2015年2月、親子は指導者らを相手に損害賠償請求訴訟を起こした。技を使ったことの違法性が認められたものの、「内部通報制度の趣旨からすると、まず通報者本人から詳しく事情を聞き取ることが基本なのに、(それをしなかった全柔連は)ガバナンスが効いていないと感じた。このままでは被害は出続けるのでは」と石阪さんは危機感を抱いた。そこで2019年4月、全柔連を相手取り、計330万円の慰謝料を求め東京地裁に裁判を起こしたのだ。