筑波大学名誉教授でスポーツ心理学が専門の市村操一さんは「この波を逃さず変化につなげていくべきだ」と話す。

 市村さんによると、AP通信東京支社は昨年10月、日本の学校における柔道部の活動中に死者が多いという記事を世界に発信。全柔連会長の山下さんはインタビューの中で「(暴力や事故防止の)メッセージが現場の指導者の全員にはいきわたっていなかったことが問題だ」と語った。同じ記事の中でフランスのボルドー大学の柔道家だったブルーゼ七段は「日本の柔道教師の問題は、柔道の腕前はあるのに、若者の身体的条件や心理的欲求に対応することができないことだ」と述べている。

 この記事は、アメリカのUSA Today紙をはじめ、インドのCNN-News18の電子版にまで中継され世界に広がっている。

 市村さんは、上記も含めた内容を論文『「数えきれないほど叩かれて」の世界の反響』として、「上競技学会誌先」に寄稿。最後のページに、こうつづった。

「2021年の東京オリンピックが開催されるか否かに関わらず、日本のスポーツ界はオリンピックファミリーのメンバーとして世界のスポーツの健全な発展に寄与するために謙虚な努力をしなければならない」

「草の根」でも変わり始めた

「草の根」にも新しい動きが見える。

 柔道による発達障害の子ども支援や国際交流のコーディネートなどを手掛ける「特定非営利活動法人judo3.0」代表理事の酒井重義さん(44)は2月、識者を招き「中高の柔道部が大きく減少。これからどうする?」と題したセミナーを実施した。

 2004年に20万人だった国内の登録柔道人口は減少の一途をたどり、2020年には14万人にまで落ち込んでいる。人気の落ち込みの理由はさまざまあるだろうが、V字回復には、柔道指導者の意識の改善が間違いなく急務だろう。

「子どもに熱心にかかわる先生は多い。オープンに指導者が対話できる環境づくりが進めば、きっと変われる」と酒井さんは力を込めた。


島沢 優子(しまざわ ゆうこ)Yuko Simazawaフリーライター
日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。