人生の転機となった3つの出会い

 1984年に三宅裕司主催の劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)に入団し、俳優人生をスタートしてから、今年で37年目を迎えた寺脇さん。人生の大きな転機となった3つの出会いがある。

最初は三宅裕司さんという、SETの座長との出会いです。そこで、今の自分がやっていることの土台の技術も笑いのセンスも、スタッフへの接し方や人としての考え方というのを教えてもらえたのは大きかったです」

「そして、同じ劇団で五朗に出会えた。これが2つ目です。俳優人生のスタートで人生をともに歩んでいく男に出会えた。それも大きいです」

「3つ目は、やっぱり水谷豊さんと出会えたことですね。29歳のときにドラマ『刑事貴族2』で初共演させていただいて。作品のメイン(キャスト)としてのあり方、撮影現場での居方(いかた)、人に対する考え方などを教えていただきました」

 俳優・寺脇康文の名を一躍メジャーにした作品とえいば、やはり『相棒』。演じた亀山薫は、今も語り継がれるハマリ役だ。

「亀山という役に出会ったことは大きいです。もともと、豊さんが2人で一緒にやろうと言ってくださってできた作品なので、亀山はルパン三世みたいなイメージの刑事にしたい、という僕のアイデアをプロデューサーが受け入れてくれたんですね。豊さんのちょっと堅い杉下右京と亀山薫という静と動の刑事像ができていって。自分のやりたかった刑事像がうまくいったことは、豊さんにもプロデューサーと脚本家にも感謝しかないです」

「その後、豊さんが“このままやっていると、一生、亀山になってしまうよ。そろそろお前がメインの作品をやっていけ”と送り出してくださって。『相棒』を卒業してから1~2年は、亀山を超えなきゃって気負いがありました。でも、非常に大事な僕の財産なのだから、そこを超える必要はないなと思うようになりましたね」

来年には還暦を迎える

 現在、59歳。年齢的に人生の折り返し地点を過ぎて、より大切に思うのは「人生を楽しむこと」と明かす。

「なるべく楽しい時間を持ちたい。だから、細かいことをあまり考えなくなってきたかな。若いときは、悩むことがひとつのエネルギーですけど、50を越えてくると悩んでいるのがもったいないなと思って(笑)」

「例えば若いころは、“この歌のメロディーがどうしてもつかめない。キーが出ない。悔しいから頑張ろう”と思いましたけど、今は“出るキーでやればいいや”っていう考えになって。もちろん努力はしますけど、できることのベストを尽くすというか。ないものねだりするんじゃなくて、自分が今できる能力があるものを生かそうと

 普段の生活での楽しみは──。

今はできませんけど、やっぱり仲間たちとお酒を飲む時間が本当に楽しくて。それは、若い方たちに何かを伝える場でもあるし、こちらが何かを学ぶ場でもあるし。そういう幸せな時間っていうのをすごく大切にしたいなと思いますね。“どうしたら一日に楽しい時間がたくさん生まれるのか”というのは、いつも考えています」

 身長180cmのすらりとしたスタイルは、20代のころからほとんと変わっていないそう。体形維持のためにしていることを聞くと。

お酒を飲みたいし、好きなものを食べたいから、運動はします。でも、無理はしません。しんどいことを続けようとしても気持ちが続かないから、このくらいでいいかという毎日続けられるものをやる。朝起きて、半身浴をして、ストレッチをします。筋トレも腹筋はしますけど、腕立てとかしんどいものじゃなくて、バットの素振りとかで楽しみながらできることをやっています。あと何もない日は、ウォーキングで1時間半~2時間くらい歩きますね」

「ジムは苦手なので行かないです。そのほうが自分のペースでできるし、その日の体調や気分で“歩くのも半分で終わろう”とか“筋トレは休もう”とか。楽ちんなところを作っておかないと、張り詰めちゃうので。でも毎朝、半身浴の後に必ず体重計に乗ります。それで食事の量を調節したりはします。身体が商売道具なので最低限のメンテナンスをするのは当たり前ですけど、僕は自分のおなかが出るのがいやなんですよね(笑)

 来年には還暦を迎える寺脇さん。これからも演劇への情熱が衰えることはなさそうだ。

「今回の舞台の稽古中も、五朗ちゃんと話しましたけど。悲しいかな、昔はできていたことが、できなくなるってことがあるわけですよね。だから60代は、できていた幻に惑わされず、危ないことはやらない勇気を持って(笑)。でも、今のところは、今いちばんしたい芝居を作ることを続けていくでしょうね。あと、地球ゴージャスの最後の目標としては、僕ら2人か、もしくは役者4人くらいの少人数で、全国都道府県を回る公演をするっていうのを決めているんですよ。いつになるかわからないですけど(笑)

(取材・文/井ノ口裕子)

〈PROFILE〉
てらわき・やすふみ 1962年2月25日、大阪府出身。1984年に三宅裕司主宰の劇団スーパー・エキセントリック・シアターに入団し俳優ビュー。複数の公演出演を経て退団。1994年、岸谷五朗とともに演劇ユニット「地球ゴージャス」を結成。以降、舞台、映画、ドラマで幅広く活躍。映画『ブルーヘブンを君に』が6月11日(金)全国公開。現在、NHK Eテレの語学番組『ボキャブライダー on TV』にレギュラー出演中。

●公演情報
Daiwa House Special Broadway Musical『The PROM』Produced by 地球ゴージャス(東京公演:2021年3月10日~4月13日、TBS赤坂ACTシアター/大阪公演:5月9日~5月16日、フェスティバルホール)
脚本:ボブ・マーティン、チャド・ベゲリン
音楽:マシュー・スクラー
作詞:チャド・ベリゲン
日本版脚本・訳詞・演出:岸谷五朗
出演:葵わかな、三吉彩花/大黒摩季・草刈民代・保坂知寿/霧矢大夢/佐賀龍彦(LE VELVETS)・TAKA(Skoop On Somebody)/岸谷五朗、寺脇康文ほか
〈公式サイト〉https://www.chikyu-gorgeous.jp/the-prom/