「彼女には『鉄の女』でいる理由がある」東の夫はそう言って微笑む。3月18日、突如「胃がん」を公表した東ちづる。会見では、同情は無用! と言わんばかりのバイタリティーに満ちた姿で報道陣を圧倒してみせた。数々の困難をステップアップにつなげてきた東。彼女の周りには、差別や偏見、病と闘い、ともに称え合うたくさんの仲間の姿があった──。

オリパラ大会公式文化プログラムを担当中、胃がんが発覚

 東京にある渋谷区文化総合センター大和田のホール。

 その舞台上に女優でタレントの東ちづる(60)の姿があった。悪魔のような魔法使いのような黒の衣装。まるでハロウィンのようなコスチュームに身を包み、演者やスタッフたちに向かってテキパキ指示を出している。

「みんなタイミングをもっと合わせて、ちゃんとお客さんのほうを向いてくださいね」

 3月18日、東が座長を務める「まぜこぜ一座」の舞台『月夜のからくりハウス 渋谷の巻』のリハーサルが行われていた。全盲の落語家、ろう俳優、義足や車椅子のダンサー、自閉症のダンサー、小人プロレスラー、女装詩人、ドラァグクイーンなど“マイノリティー”にくくられる演者がズラリ。そこに極悪レスラーのダンプ松本やアコーディオン奏者なども加わり、障がいの有無にかかわらず、まぜこぜになって、パフォーマンスを披露していく。

 東は、障がいのある人や生きづらさを抱えた人たちの創作活動を行う「まぜこぜ一座」を2017年に旗揚げし、演劇の総合演出を務めてきた。

 そんな実績が認められ、東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会公式文化プログラム「東京2020 NIPPONフェスティバル」のひとつの文化パート総指揮者にも就任。「多様性」がテーマとなる映像制作の準備も着々と進んでいた。

 だが、冒頭のリハーサル同日、突然開かれた記者会見で東は「胃がん」を公表した。

「私、胃がんだったようなんです。でも、内視鏡で切除しまして、こんなふうに元気になって、日々バリバリやっております!」

舞台のリハーサル前、衣装姿で会見を開いた

 昨年11月末に、胃痛と貧血の症状で診察を受けたところ胃潰瘍(いかいよう)と診断され、1週間の入院。念のため12月初旬に受けた精密検査で早期の胃がんが発見されたのだ。

 今年2月3日に内視鏡的粘膜下層剥離術を行い、13日には退院していたという。

 会見での姿は溌剌(はつらつ)としていたが、改めて本人に話を聞いてみた。

「胃潰瘍が、がんを教えてくれたと私は思っています。胃潰瘍にならなければ気がつかない可能性もありましたから」

 東は「スキルス性胃がん」を恐れていたと明かす。

 医師に詳しい説明を聞きに行く前、家にいた夫にはこう告げていた。

「たぶん早期のがんなんだと思う。でも、もしスキルス性だとしたら今後のことを話し合いたい」

 スキルスとは、「硬い腫瘍」を意味する言葉。一般の胃がんとは異なり、胃の壁に沿って染み込むように患部が広がっていく。症状が現れにくく、悪化してから発見されることが多い。5年生存率は7%未満といわれている。

 そのため、「死」を連想しなかったわけではなかった。

いちばんに考えたのが、引き受けたオリパラの仕事でした。引き継いでくれる人を探さなきゃならないと思った。これは私じゃなかろうが、実現させねばならない。とりあえず、あと1、2か月命があるんだったら、ガッチリと信頼できる映像班で、編集もこんな感じでとどう伝えればいいか真剣に考えました。

 あとは夫が1人になったらどうなるのか、形見はどうしよう、少ないけど遺産はどうなるのか、最後に旅行にも行きたいなとか……