病院より自宅にいるほうが患者の状態がよくわかる

 内田医師が精神科医として訪問診療にかかわるようになったきっかけは、医師になって間もないころに勤務していた病院で起こった出来事だった。

「外泊許可が出て自宅に戻っていた患者が病院に帰ってこないことがありました。先輩の医師と一緒に患者の家まで迎えに行くと、そこには病院で見せたことのない、いきいきとした表情の患者がいたのです。その時、病院より自宅にいるほうが患者の状態がよくわかるのだなと実感し、今に繋がっています」(内田医師、以下同)

 在宅における認知症の症状の悪化を少しでも遅くするために、本人や家族ができることを聞くと、

「人と話すこと、規則正しい生活をすること、バランスのいい食事をとること、運動をすること。さらにデイサービスに行くなど少しでも社会とのつながりを保つことで、悪化を遅らすことができます」

 と話す。

 同クリニックでは、多くの人に認知症の基本知識を身につけてもらおうと、公民館や介護施設で講演なども行っている。

 今後、在宅医療を希望する場合、診療所を決める際のアドバイスとしては、

「クリニックによって臨時の対応を速やかにしてくれるところと、そうでないところがあります。見分けるにはどの程度、看取りをしているかが1つの指標となります。多職種連携が重要になるため、地域包括支援センターやケアマネさんの評判がいいクリニックもおすすめです」

 と語る。

 2025年には認知症患者は、高齢者の5人に1人の割合である約700万人、在宅医療を必要とする者は約29万人になると推計される。誰もが認知症になる可能性を持っている。たろうクリニックのように、精神科医や認知症専門医による訪問診療が行える在宅療養支援診療所・病院が全国的に広がっていけば、患者や家族が安心して過ごせる社会に向けた取り組みの1つになっていくのではないだろうか。

医療法人すずらん会 たろうクリニック
所在地 福岡県福岡市東区名島1-1-31
理事長 浦島創
院長  内田直樹


宇山公子(うやま・きみこ)
フリーライター。OL、主婦、全国紙記者を経て、現在はフリーランスで活動。主に、健康、介護、医療、食分野での執筆を行っている