なかなか収まる兆しの見えないコロナ禍で、在宅の認知症患者の症状が悪化するケースが増えている。

 厚生労働省に届け出のある在宅療養支援診療所・病院は全国で1万5000か所以上。在宅医療を受けている患者数は18万人を超え、高齢で認知症を伴っていることが非常に多いという。その数は年々、増加を続けている。

 認知症を患っている場合、在宅でも精神科医や認知症専門医に継続的に診察してもらうことが認知機能の低下を遅らせるために有効であるが、残念ながら訪問診療を行うそれらの医師は極めて少ない。

 そんな中、九州地方で精神科医・認知症専門医による訪問診療を続けているクリニックを紹介する。

精神科医や認知症専門医による訪問診療を実施

 新型コロナウイルス感染症の拡大により在宅の認知症患者の症状が悪化したことが、昨年、広島大学と日本老年医学会が実施した調査・研究により明らかになった。全国945の医療・介護施設とケアマネジャー751人を対象に調査をしている。

 その結果、約4割の認知症者に影響が生じたとし、特に在宅者では約半数以上に、認知機能の低下、身体活動量の低下などの影響が見られたと回答があった。在宅者は外出を極力控えるため他者と触れあう時間が減少し、身体を動かす時間も少なくなったためとみられ、また、施設に入所していても外出や面会制限があり、不安の増加や認知機能の低下が起こっていた。

 福岡県にある医療法人すずらん会「たろうクリニック」(福岡市東区)では、精神科医や認知症専門医による訪問診療を実施している。

 精神科医であり認知症専門医でもある院長の内田直樹医師(42)をはじめ、常勤の精神科医らが内科や外科の医師らとチームを組み市内近郊を回る。毎日、7~10人の医師が訪問診療を行い、ひと月に約1000人の患者を診察する。そのほとんどが高齢で認知症を併発しているという。患者の約3割が自宅、7割が施設の入所者だ。

 患者1人につき月2回訪問をしており、1回は精神科医、もう1回は内科医が診察する(患者の状態や状況により月1回の診察の場合もある)。非常勤の耳鼻科医による訪問診療もあり、耳の聞こえや飲み込みなどを検査する。これは全国的にも珍しいという。歯の診療は他病院の歯科医と提携して治療を行っている。ケアマネジャーやヘルパーなど多職種との連携も患者の生活を支えるため大切であり、協力を怠らない。

 クリニックでは医療情報の発信にも務めている。介護関係者らがコロナに関する不確かな情報に惑わされないよう、80施設に対し、約2週間に1回、ウイルスやワクチンなどについての情報をメールやファックスなどで伝えている。