「男社会」が阻む政界の壁

 日本で女性の首相が誕生しない理由のひとつとして、政治家や専門家がまず口をそろえるのは、女性議員の圧倒的な少なさだ。参議院に占める女性の割合は2割で、衆議院にいたっては1割にとどまる。日本の政界はまさしく、男性議員が中心の「男社会」だ。それは森喜朗元首相の女性蔑視発言にも如実に現れている。戦後、比例代表を除いて女性の衆院議員を選出したことがない都道府県は青森、富山、山口、佐賀など8県、参院議員は岩手、石川、福井、長野など11県に上る。

 被選挙権は日本国民であれば衆院議員は満25歳以上、参院議員は満30歳以上と定められている。だが、この条件の裏には「見えない壁」が立ちはだかっている。

 選挙を専門に取材をするノンフィクションライターの畠山理仁さん(48)が解説する。

「そもそも議員に立候補することが日本では特殊だと思われがちです。隣近所の目もありますし、ポスターを張ればいたずらされる。さらに選挙への新規参入を阻む理由は、供託金ですね」

 供託金とは、公職選挙立候補者が法務局に寄託しなければならないお金で、日本は300万円と世界で最も高額だ。法定得票数に達しない場合は没収され、まずはこの金額を用意するのが最初の難関だろう。

 社会民主党副党首の福島瑞穂参院議員は、女性の立候補者が現れにくい現状をこう分析する。

「政治は男の世界だと思われているので、人生設計をするうえで議員になろうと思う女性が少ない。仮に立候補したとしても、育児や介護など家庭に責任を持っている女性が選挙戦を戦うとなると、その両立が難しいと思われているのではないか」

 それらの壁を乗り越え、立候補して当選したとしても、待っている舞台は男社会だ。畠山さんが語る。

「政界で注目を浴びている女性政治家は、力のある男性の政治家に引き立てられ、表舞台に出てくる現状が多分にあります。それが党の存続のためにも必要だからです。もっとストレートに言うと、政治力そのもので評価されず、有力な男性政治家に利用されがちなのです」

 元タレントの森下千里氏(39)が自民党候補として次期衆院選への出馬の可能性が報じられた際、有権者から非難の声が殺到したが、これこそまさしく「利用価値がある」と判断された典型例だろう。五輪担当相に再任された丸川珠代氏(50)も、知名度を買われてのし上がった女性政治家の1人である。