闇バイトは一度関わると抜けだせない

 実はこうした犯罪に巻き込まれるのは大人ばかりではなく、未成年のケースも増えている。

 6月には、高校生が相次いで埼玉県警に逮捕された。

「入間市の17歳の高校生の少年が静岡県内でオレオレ詐欺の受け子をしてお金を受け取りました。ですが説得され母親に連れられて自首しました。彼は詐欺の疑いで逮捕されています」(全国紙社会部記者)

 福島県の高校生の少女(17)も静岡県の女性(83)から現金250万円などを騙し取ったとして逮捕された。

「大人、子どもにかかわらず人は誰かに認められたいという承認欲求を持っています。それをお金で満たそうとするんです」(佐々木さん、以下同)

 可愛い服を買ったり、おいしそうなものを食べたり。SNSなどを通して共有し、評価を求める。

犯罪者いわく、“いちばん誘惑に負けてしまう年代”なんです」

 お金がない……そんなときに、地道にバイトをしてお金を稼ぐという手順を追わず、安易な方向に流されてしまえば悪い大人たちに狙われる。

「1回だけやって10万円ゲットして、その後すぐにやめれば警察に捕まることはないだろう」と闇バイトで犯罪を犯した若者たちはそうした甘い考えを持っていたという。

 しかし簡単には抜けだすことができないのも闇バイトの怖いところなのだ。

「面接時に送った学生証や身分証などの個人情報を握られている状態です。“やめたい”と言っても、“学校にチクられたくなかったら手伝え”と脅されてしまい、抜けるに抜けられなくなってしまうのです。一度でも関わってしまえば、そこで終わりです」

 さらに犯罪者たちは、言葉巧みに罪の意識をなくすような言葉を投げかけてくるのも特徴だ。

「過去に摘発された犯罪者グループは、犯罪行為をする前の受け子のバイトの子たちにこう言っていました。“高齢者がタンス貯金して使っていないお金を僕たちが使うことで、日本の経済を回している。つまり、日本を助けている。だからこれは犯罪じゃないんだ”“みんなやってるから大丈夫”。そんな根拠のないうたい文句に騙されてはいけません」

 佐々木さんは語気を強める。

元埼玉県警警部補の佐々木成三さんに聞いた
元埼玉県警警部補の佐々木成三さんに聞いた
【写真】元埼玉県警警部補の佐々木成三さん

コロナ禍で増加傾向、一度の犯行で実刑も

 さらにコロナ禍でネットを使った犯罪は増加傾向にあると続ける。

 ターゲット層になりうる学生たちがネットに触れる時間が増加して闇バイトのリクルートがしやすくなったからだ。また、収入減で困窮する大人世代にもターゲットを広げ、甘い誘い文句で声をかけてくる犯罪者も増えている。

 昨年11月、80代女性からキャッシュカードを騙し取り、約217万円を引き出した男(当時29)が逮捕された。男はコロナ禍で店長を務めていた飲食店が経営難になったことでSNSで見た闇バイトの高額報酬に魅力を感じ、応募。犯行に至ったという。

「闇バイトをしてしまった学生の中には、警察に捕まって初めて、自分がやったことが特殊詐欺の“受け子”だったと知ったというケースもありました。受け子は詐欺罪という重大な犯罪です。偽名を使って銀行員になりすましていますし、“自分がやったことは犯罪とは知りませんでした”では通用しません」

 闇バイトで犯罪に加担し逮捕されると、その経緯によっては弁解が通用しないことも。

「初犯でも実刑、つまり刑務所に入ることになる可能性が大きいものもあります。詐欺罪、強盗致傷など、その犯罪行為によります」

 そう指摘するのは元検察官の高橋麻理弁護士だ。

「闇バイトというのはあくまでも実行役を募るための手段。結果としてどのような犯罪に加担したかで刑罰が決まりますので、アルバイト感覚でやったとしても、その当事者に重い実刑が科されてしまいます」(高橋弁護士、以下同)