腸内細菌は、ただ量があればいいというものではなく、その種類とバランスが大事になります。健康な人間の大腸には、およそ1000種類、数にして100兆~1000兆個の腸内細菌がいるといわれています。

 1000種類の腸内細菌は、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の大きく3つに分けられます。日和見菌は、腸内の状態によっていろいろ立ち位置を変える菌です。加工品やファストフードなどに偏った不健康な食生活を送っていたり、食物繊維の摂取が少なかったりすると、バランスが崩れ悪玉菌が優位になります。

 便秘が原因で悪玉菌が増えると、尿毒素などの有害物質を多く産出し、腎臓も悪くします。また、腸内細菌のバランスが悪い状態が続くと、脳の炎症が引き起こされ認知症につながる可能性も指摘されています。

 このようなことから、善玉菌優位になるようないいエサを腸内細菌に送ってあげなければならない。そのために必須の栄養素が食物繊維なのです。

 野菜、豆類、海藻、キノコといった植物性食品は、食物繊維が豊富です。食物繊維というと、「ゴボウやセロリなどを食べたときに感じる筋っぽいもの」という解釈をしている人も多いのではないかと思います。そうした、いかにも繊維らしきものは「不溶性食物繊維」といって、どちらかというと便のかさを増すのに役立ちます。

 一方で、ワカメやコンブ、キノコなどのヌルヌルした部分は「水溶性食物繊維」で、こちらは主に腸内細菌のエサとなります。大腸にとっては「不溶性」「水溶性」どちらも大事。普段から野菜や海藻、キノコ類を意識的に食べるようにしましょう。

「食物繊維」に対する認識が一変した

 かつて食物繊維は、ただの「カス」と捉えられていました。というのも、唯一、私たちが消化・吸収できない栄養素だからです。

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 私たちが食事をすれば、消化の過程で、例えば炭水化物はブドウ糖へ、タンパク質はアミノ酸へと姿を変え、小腸から吸収されていきます。ところが、食物繊維だけはそれをしないので、栄養学的には「役立たず」だと思われていたわけです。

 実際に、野菜嫌いの人たちの発言の中には「野菜に含まれるビタミンやミネラルをサプリメントで補充すれば何も問題はない」と、食物繊維の存在などまったく無視したものも見られました。

 しかし、腸内細菌の研究が進んで、その認識は一新されました。私たちが消化・吸収することができないからこそ、食物繊維は小腸を通過して大腸まで届き、腸内細菌のエサとなるわけです。

 ちなみに、今、日本人に大腸がんが激増しています。女性は、部位別がんの罹患率では2位(1位は乳がん)で、死亡率に関して言うと1位なのです。男性は罹患率では、前立腺がん、胃がんに続いて3位。死亡率では、肺がん、胃がんに続いて3位となっています。

 女性で死亡率が高いのは、肛門からの大腸内視鏡検査を嫌がっているうちに進行させてしまうといった理由もあるかもしれません。しかし、最大の原因は、男女ともに食物繊維豊富な食材の摂取が減っていることです。繰り返し述べますが、大腸の環境は大腸の問題に留まりません。全身の健康を守るために、食物繊維を摂りましょう。


牧田 善二(まきた ぜんじ)Zenji Makita  医学博士・AGE牧田クリニック院長
AGE牧田クリニック院長。糖尿病専門医。医学博士。1979年、北海道大学医学部卒業。ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。1996年より北海道大学医学部講師。2000年より久留米大学医学部教授。2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、腎臓病治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業し、延べ20万人以上の患者を診ている。