さらにトイレは「おばけに会うための条件がつけやすい場所」でもあると吉岡准教授。

「学校の怪談というのは幽霊やお化けに会うための条件が事細かに決まっているんですね。日時や天候、場所。トイレでも奥から◯番目などと厳密に指定されるんです」

 この条件が合わないとお化けとの遭遇を回避できる。

花子さんの噂もバリエーションが多く、3回回ったり、掛け声が決まっているところも
【写真】全国的ブームでが起きた「口裂け女」

「むしろ、本当に見た、と主張する子は友人たちから煙たがられます」

 花子さんは女の子。女子トイレにしか出ないのでは?

「実は男子トイレのほうが怪談が多いんです。理由はわかりませんけども、以前、『みんなの学校の怪談』(講談社)で話を分類したことがあります。それを見てみると男性がトイレの怪談を語っているケースが多かったんです。もしかすると花子さんは女の子の怪談ではなく、男の子の怪談なのかもしれません」

 前出の吉田さんも、

「特に男子にとって学校のトイレの個室に入ることはタブーでした。怪談というのは何らかのいわれが形を変えて噴出するものです。そうした子どもたちの思いが『トイレの怪談』として語り継がれてきたのではないでしょうか」

 口裂け女、花子さんが落ち着いたころに登場したのが『テケテケ』という亡霊だ。下半身が欠損した少女の霊が、両腕だけで移動するのが特徴。

「私が聞いたのは昔、女子高生が冬、列車にはねられ下半身と上半身が切断されてしまった。あまりの寒さに切断部分が凍結してしばらくの間、生きていて、腕だけではっていたという話」(30代の女性)

 これを聞いた人のところには3日以内に下半身のない女性の霊が現れるが、逃げても時速100キロの高速で追いかけてくるというのだ。

 '90年代にメディアを通して全国に広まったとみられるが、実はその前、'80年代の沖縄と北海道で流行していたという。テケテケは北海道で発祥につながりそうな噂が多いというが、真逆の沖縄。その理由はわかっていない。

 怖い話は学校や一部の地域で語られ、ローカル誌などで取り上げられているうちは人々はその存在を信じる。

 だが、それが全国的に取り上げられると、「うちの地域だけの話じゃないんだ? この話は嘘だ」と白けてしまう。そのため、ブームになると怖い噂も消えていく。逆にブームにならなければ、長く語られていくというのだ。

 それでもブームになった『口裂け女』や『花子さん』の噂はいつの時代も廃れることはない。

最新技術に強い妖怪やお化け

 この先、新たなブームは生まれるのだろうか。

「今は新しいものが次々に生まれる状況です。ぱっと出てきては消え、伝統として定着することがないまま現れては消えています」(吉岡准教授)

 吉田さんが注目する存在が、『窓から首ひょこひょこ女』だ。東京都の高尾、西八王子周辺に現れる正体不明な女。特徴は窓から室内をのぞいてくること。2階以上の部屋でのぞかれたとすると……。

 また吉岡准教授によると、最近ではSNSやスマートフォン、リモートツールをベースにした怖い話も子どもたちから聞かれるようになった。

「顔認証でロックがはずれない。すると後日事故にあった。LINEの画面の日付が4900年と表示されてゾッとしたといった話があります。システムの不具合だろうとは思うのですが、教えてくれた学生たちはすごく怖がっていた」

 こうした話に尾ひれがつき、新たな怪談になるという。

「妖怪やお化けなどは最新技術に強いんですよ。スマートフォンやリモートツール、顔認証、どんなに最新のものでもあっという間に乗っ取り、使いこなしてしまう。その話も今度はネットの中にアーカイブ化して残っていくかもしれませんね」(吉岡准教授)

 コロナ禍の昨今、外出時にマスクは必須だ。街中で口裂け女と出会ったとしても気づかないかもしれない……。

 もしかすると、あなたのすぐそばにも─。

お話を伺ったのは……

山口県立大学 吉岡一志准教授 ●山口県立大学国際文化学部文化創造学科。専門は教育社会学、コミュニケーション論、子ども文化論。教員らに聞き取りをするなどして学校の怪談の研究も行っている。

怪談師 吉田悠軌さん ●怪談サークル『とうもろこしの会』会長。怪談の収集やオカルト全般を研究。著書に『禁足地巡礼』(扶桑社)、『一生忘れない怖い話の語り方』(KADOKAWA)など。