無茶な設定が人の心をスカッとさせる

「名前を知らない患者さんが多く、呼びかけることはほとんどありません」(川原医師)

 心臓マッサージは演出の要素が強いが、ひとりひとりの患者の設定は、リアルにつくられているそう。

「第2話で、足が鉄骨に挟まれた患者さんが、救出直後は意識が普通だったのに、その後、心肺停止になったシーンがあったんです。それはリアルだと思いました。長時間挟まれていると筋肉がやられてしまい、その影響で電解質の問題が起こって、高カリウム血症からこういった事態になってしまいます」(川原医師)

『TOKYO MER』で共演中の菜々緒と石田ゆり子
『TOKYO MER』で共演中の菜々緒と石田ゆり子
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さらに宮田医師も、第5話で賀来賢人が、患者に点滴されていた硫酸マグネシウムで妊娠高血圧症候群であることに気づくという設定には、感心したと話す。

 ドラマで最も印象的なのは、出動した現場が終わった後の「死者は……、ゼロです!」の決めゼリフ。

「実際の現場だと、強調して死者の数を言うことはなく、安全面や感染対策で問題がなかったか、処置の優先順位をつける、トリアージは適切に行われたかを中心に確認します」(宮田医師)

 川原医師も口をそろえる。

「そもそも最終的な人数の確認をするのは、医師ではなく、消防です。ドラマのように、人数を読み上げてみんなで歓声を上げるというのは、見たことがないですね」

 やはり、『MER』でおなじみのシーンには、フィクションの要素がかなりありそう。

 これについて、前出の木村さんはこう分析する。

「『MER』は“死者はゼロ”ということが前提になっています。“きっとこの先生が救ってくれる”という時代劇のヒーロー的な前提で見ていくドラマで、リアリティーよりエンタメ性を重視しています。こんな先生やこんな車があったらいいな、というファンタジー。

 大惨事が起きている現場だから緊急で行くのに死者がゼロというのは、普通に考えたらむちゃです。でも、そのくらいのほうが痛快で見やすい。コロナ禍で心が沈みがちなので、心がスカッとするほうが、リアリティーがありすぎるよりも、ちょうどいいのではないでしょうか

 災害現場の患者だけでなく、視聴者の心までも救う『MER』。もう終盤なのが名残惜しい!