その後の報道で、'21年度の給付金は“年内に現金5万円先行支給”、“来春に5万円相当のクーポン支給”自民公明両党は合意した。自民側は年収960万円の所得制限の導入を提案、公明側は持ち帰って検討すると、支給対象については合意に至っていない。

 衆院選時に、公明党の山口那津男代表は一律での給付について「所得制限を設ければスピード感が劣る。どこでわけるか基準を巡っても不公平感が出る」と“一律”の意義を強調していた。先行支給、残りは追って支給となれば、その“スピード感”の論理は揺らいでいるとも言える。所得格差についてはネットでも批判の声が上がっているが、一律での支給については……。

「“所得制限なしの一律給付金”であることが重要です。この点がわからずに、長年各種の政策に所得制限をつけたがる立憲民主党は困ったものです。

 しかし、財務省的には、継続的に予算を取られる基礎年金の国庫負担のような政策よりも、対象者を所得などで限定しながら、その都度都度に政治家と交渉して予算の出し入れをできる条件付き一時給付が好都合でしょう」

山崎氏「バカな議論でしたね」

 '10年4月に実施された『子ども手当』。当時の首相であった鳩山由紀夫が実施したが、“鳩山さんのようなお金持ちの子どもにも給付するのはおかしい”と議論となった。

バカな議論でしたね。正解は“一律に給付しておいて、鳩山さんには追加的な税金をたくさん払って貰えばいい”です

 生活保護などにも言えることですが、所得などに条件をつけて給付すると、行政手続きがわずらわしくなり、時間とコストがかかりますし、行政に不必要な権力が生じます。

 また、国民の行動に余計な影響を与え、パートの収入の“壁”のような問題も起こる。現金給付政策の再分配効果は、先ほど申し上げた保険料や受信料を負担するような、給付マイナス負担の変化の差し引きで測るとよく、税制側だけを調整する方が、両方を調整して制度を複雑にするよりもはるかにシンプルで賢い」

 毎度繰り返される所得制限についての議論は、「いい加減に卒業してほしい」と山崎さん。

「給付の財源として、現在直ちに、つまり給付と同時に増税することは、デフレ脱却を目指している日本にあっては、マクロ経済政策として間違いです。

 “財源を言わないのは無責任だ”という財務省を援護するかのような議論に引っ掛かって、悪いタイミングの増税を招かないことが大切です。ともかく“所得制限が必要だ”という議論は、頭が悪すぎますね

 前回、'20年の『特別定額給付金』は、7割以上が貯蓄に回り、経済的な効果は薄かったと言われている。はたして今回は……。

お話を聞いたのは……●山崎元(やまざき・はじめ)●経済評論家。1958年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業。現在、楽天証券経済研究所客員研究員。株式会社マイベンチマーク代表取締役。東京大学を卒業後、三菱商事に入社。野村投信、住友生命、住友信託、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一証券、明治生命、UFJ総研など、計12回の転職を経て現職に至る。現在は、コンサルタントとして資産運用分野を専門に手掛けるほか、経済解説や資産運用を中心に、メディア出演、執筆、講演会、各種委員会委員等を務める。