12月中に国へ承認申請される見通しの「飲む中絶薬」が今、注目を集めている。年間14万5000件の妊娠中絶が行われている日本では、70年以上前から変わらない手術や制度によって、女性だけに多くの負担が強いられてきたためだ。安全な中絶を求める当事者の訴えとは―。

大きな負担がかかる中絶手術「そうは法」

「あのときのことを思い出すと今も悔しくて涙が出ます」

 出版社で働くMさん(36)は26歳のとき、望まない妊娠をした。

「その日は排卵日前後だということはわかっていたので、ちゃんと避妊してねと頼んだのに、だまし討ちのように中出しされてしまったんです」

 当時の交際相手は結婚を望んでいたが、Mさんにはまだその意思はなかった。彼がこっそり避妊具をはずしたのは、「妊娠したら結婚する気になるだろう」という身勝手で浅はかな行動だった。

 予定日に生理が来なかったため、すぐに婦人科を受診。すでに妊娠5週目だった。産む意思はないとその場で告げると、年配の女性医師はやれやれ、という顔をして「中絶は女性の身体に負担をかけますよ」と冷たく言った。

 すぐにでも手術をしたかったが、指定された手術日は2週間後。仕事がいちばん忙しい時期だ。結果的に手術ができたのは、妊娠11週目にもかかろうとするころだった。

 術後の出血は2週間近く続き、腹部の鈍痛にも苦しんだ。「俺の子は産みたくなかったんだね」と、恨みがましさを隠さない交際相手は苦しむMさんに冷ややかだった。なぜこんな思いをしなければならないの? あのころを思い出すと当時の痛みがよみがえる。そうMさんは言う。

 Mさんが受けた中絶手術は「そうは法」といって、子宮内部に金属製の細長い器具を入れ、受精卵が成長した胚を子宮の中からかき出す手術だ。日本では戦後間もないころから現在に至るまで広く行われてきたが、欧米などでは1970年代ごろから「吸引法」が導入されている。軟らかいチューブを子宮に差し込み、胚を吸い取る手術で、女性の身体への負担も少ない。

 WHO(世界保健機関)が2012年に発表したガイドラインでは、そうは法は子宮を傷つけたり出血したりするリスクが吸引法の2~3倍は高く、痛みも伴うとして、中絶薬か吸引法に置き換えるよう勧告している。