また、こちらも『レット・イット・ビー』で端折られていた「ルーフトップ・コンサート」の42分間の映像(第3話後半)はまさに圧巻。ビートルズの演奏だけでなく、突然ビルの上から爆音が流れてきたことに対する市民や警察の反応とミックスされて、臨場感たっぷり。こちらはマニア以外でも十分楽しめるだろう。

 私の周囲のビートルズ・ファンによれば、この「ルーフトップ・コンサート」を見ることが「完走」へのモチベーションとなっているようだ。そんな期待に十分応える42分間である。

 感動したのは、第1話・第2話で、正直グダグダなリハーサルを繰り返しているにもかかわらず、ビルの屋上で「さすがビートルズ!」という感じの完璧な演奏を決めるところ。

 険悪な人間関係があったとしても、ロックンロールへの情熱の下には一致団結する音楽青年たちの姿を、私はとても清々しく感じた(厳密に言えば、「ルーフトップ・コンサート」の成功には、「5人目のビートルズ」=ビリー・プレストンの貢献がとても大きいことも、あらためて感じたのだが)。

動画配信サービスとの親和性が高いワケ

 さて、今回注目したいのは、このような「蔵出し音楽映像」と定額制動画配信サービスとの親和性である。

 最近の動画配信サービスの進化に追い付いていない私(55歳)は、正直に白状すれば、当初「映画で公開してくれたらいいのに」と感じたものだ(事実、当初は劇場公開が予定されていた)。しかし「8耐」を「完走」してみて、その感覚は大きく変わった。

 ポイントの1つは『ゲット・バック』の持つ「長尺性」だ。そもそも、このコンテンツの価値は、「ゲット・バック・セッション」と「ルーフトップ・コンサート」を合わせた約8時間の長尺という点にある。

 これを映画用に2時間にまとめると、それは、50年以上前に公開された『レット・イット・ビー』と変わらなくなってしまう。逆に、凝縮しないと3本立て映画という大層なことになる。

 この段階で、映画での公開は簡単ではなくなる。では、動画配信サービスとDVDやブルーレイなどのパッケージ化、どちらがいいか。ここは、人によって意見が分かれるところだろう。

 ただ、私が思ったのは、約8時間という長尺になると、テレビだけでなく、PC、スマホというマルチスクリーンで見られる動画配信サービスのほうに分があるのではないかということだ。リビング、自室、ひいては移動中にもチラチラ見ながら、「完走」に少しずつ向かっていくべきコンテンツだと感じたのだ。