東京都からおよそ1200キロ、太平洋に浮かぶ孤島『硫黄島』。かつては1000人以上の島民が暮らしていたこともあったが、太平洋戦争末期、国の重要防衛地とされ、日本軍が駐留。島民は疎開を余儀なくされ島は激戦地となった─。

 その壮絶な様子は俳優の渡辺謙、嵐の二宮和也が出演したクリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』(2006年)などでも描かれている。

 戦後も島民の帰島は叶わず、現在では自衛隊の基地が置かれ、島に住むのは自衛隊員と工事関係者など仕事を任された一部の民間人のみ。基本的には島に民間人は立ち入ることはできない。

求人情報誌にあった『硫黄島バイト』

 そんな禁断の島に上陸できる、手段のひとつが『硫黄島バイト』だ。“幻”ともいわれるほどの超レアなアルバイトで、求人情報誌で募集が掲載されるとSNSではトレンド入りするほどに注目される。

 募集は同島で米軍が演習をし、一時的に滞在する人が増える期間に出されるという。

 日本語教師の林田啓介さん(30代・仮名)は硫黄島バイト経験者のひとりだ。アルバイト内容は他言無用とされているため匿名を条件に語ってもらった。

「当時、私は海外で働いており、一時帰国した際に求人情報誌を見てこのアルバイトを見つけました」(林田さん、以下同)

 もともと戦跡を回ったり、硫黄島にも関心があったという林田さん。“いつか島にも行ってみたい”と思っていたこともあり、即応募した。

 緊張して臨んだ面接。だが、履歴書を出して簡単なことを聞かれただけで、採用されたという。というのも興味がある人は多く、注目されているが、実際に働くとなるとハードルは非常に高い。

「バイトが始まると数週間は島で過ごすことになります。会社勤めの人はそんなに長い期間休めないし、台風が来れば島から出られなくなるのでもっと長い期間滞在する可能性もあります。おまけに島は何もない」

 そのため、応募者はさほど多くないという。林田さんの同僚アルバイトは20代~70代と幅広く、大学生、フリーター、自営業者。仕事を退職したリタイア組……。年齢も住まいもその社会的な背景もバラバラだった。

 女性の採用については……。「女性用の設備が整っていないため、私がいたときは受け入れはされていませんでした」と採用は叶っていないのだ。

 林田さんが硫黄島に降り立ったのは5月。