“ラクに稼げる”イメージがひとり歩き

「ネットで小説を発表していたら出版社から声がかかってデビュー。仕事終わりや休日に小説を書いているので休みはありませんね」

 カロリー消費が少なくても苦労は多い。

「身体は動かさないけど、締め切りに追われている状況は心の負担が大きいんですよね。私も知り合いの作家さんも、帯状疱疹やストレス性胃腸炎になりました」

 いずれの作家も、ラクして稼げるとは言い難いのが現状のようだ。白鳥士郎氏も“年収8000万円説”には疑問を呈するひとり。彼は、学園コメディー『のうりん』が'14年に、少年棋士と少女の交流を描いた『りゅうおうのおしごと!』が'18年にアニメ化されたラノベ作家だ。

「純文学などは作家にファンがついたりしますが、ラノベはイラストレーターや作中のキャラクターにファンがつくことがほとんど。大ヒット作を書いた作家でも、新作が売れないというケースも多々あります。人気が出た作品の続刊を定期的に出すことでようやく生活が安定しますが、それも数年続けばいいほう。基本的に薄利多売の商売なんですよ」

ラノベ作家がほかの職業に10倍近い差をつけたが、8085万円という数字の根拠はいっさい明かされず
ラノベ作家がほかの職業に10倍近い差をつけたが、8085万円という数字の根拠はいっさい明かされず
【写真】ラノベ作家が首をかしげる『ラクして稼げる職業ランキング』

 小説家は人気商売。将来の不安が拭えなかった白鳥氏は『のうりん』シリーズの累計部数が100万部を超えても、兼業作家だったという。

「専業作家になれたのは'19年ごろ。仕事が安定したからではなく、そのころに生まれた子どもの育児をするため。今でも妻は正社員として働き、私も家事と育児を分担しながら執筆しています。ラノベ業界に憧れてくれることはありがたいことだと思いますが、ラクに稼げるというイメージが独り歩きして、世間から誤解されないことを望みます」

 きらびやかな夢を描くライトノベルは、現実と戦う作家が身を削って生み出す“ヘビー”な労力の賜物のようだ。


白鳥士郎 ライトノベル作家。将棋を題材にした代表作『りゅうおうのおしごと!』は'16年と'17年『このライトノベルがすごい!』文庫部門1位。'18年にはアニメ化された。