ターゲットを絞って照射

 エレクタユニティは、照射プランを装置に送るところまでは同じ。画期的なのは患者さんが治療台に寝て、準備が整ったところで、MRIを使って撮影し、高精度の画像を見ながら照射プランを調整し、照射中もMRIをとって位置を調整できるのだ。

 この方法で治療を行うと正確にがんだけを狙いやすくなるので、ほかの臓器を傷めにくいのだ。

「今までは少し広めの範囲に照射する方法をとっていました。そのため、放射線に弱い小腸に穴があいたり、胃に潰瘍を起こしたり、食道が狭窄するなどの後遺症が起こることがありました」

 エレクタユニティはその場でターゲットを絞って照射できるため、周辺を傷つけず、大幅に後遺症が軽減されるのだ。

「従来は、膵臓、肝臓など消化器に近いところのがんは、線量を抑えて照射をしていましたが、エレクタユニティならほかのがんと同様の線量を照射することができます。転移がないステージ1~2のがんなら、ほとんど治療が可能です」

【症例】胆管がん59歳女性(画像提供:GenesisCare)
【症例】胆管がん59歳女性(画像提供:GenesisCare)
【写真】高精度のMRIを搭載した放射線照射治療装置『エレクタユニティ』

 治療費は従来の放射線治療と変わらず、前立腺がんなら、全額負担で1回63万円。しかも保険適用でその1割か3割負担となる。エレクタユニティの治療が行える病院も、東北大学病院、大阪市立大学医学部附属病院など、今後も増えていく予定だ。

「前立腺がんについては、もしロボット手術をすすめられたら、身体にメスを入れることのない放射線治療を考えてもいいと思います。ロボット手術では残念ながら身体の機能を失うことも少なくない」

 だが、放射線治療を希望するとしても、自分の担当外科医にどう伝えるのか。それが、患者側には問題になる。

放射線治療後3か月では、ほとんどがんが見えなくなっている(画像提供:GenesisCare)
放射線治療後3か月では、ほとんどがんが見えなくなっている(画像提供:GenesisCare)

「米国では“キャンサーボード”といって各専門家が対等に治療法を説明し、治療方針を決めていきますが、日本にはその制度がない。あってもほぼ機能していないため、なかなか最初の治療に放射線治療が選ばれない状況。患者自身から“放射線治療ではどうでしょうか”など尋ねてみるといいかもしれません。日本放射線腫瘍学会のHPに一般向けの情報が掲載されていますので、まずは検索を」

 現在、エレクタユニティは、医師からの紹介がなければ治療が行えない。まずは担当医と相談することからだ。

「末期がんの患者さんや、もともと放射線治療ができないケースがあるため、このような方法をとっていますが、エレクタユニティで適用可能ながんなら、相談する価値はあります」

 放射線治療のことを学び、担当医と相談することが、自分のQOLを低下させないことにつながるのだ。

「自分で自分のQOLを守る時代がやってきています」

 これから先、がんにかかってもなるべく身体の機能を失わないために、積極的に放射線治療のことを知って、外科医に提案する勇気を持とう!

ロボット手術の失敗で悲惨な結果に 冒頭の「40代、会社員」さんの父は、通っていたがん専門病院ですすめられるままロボット手術を受けた結果、尿道括約筋を損傷した。前出の西川きよしや、演出家の宮本亞門(64)にも同じ手術支援ロボット『ダヴィンチ』が使用された。いずれの場合も排尿障害が起き、尿取りパッドを使用する結果になった。前立腺がんで特にすすめられることの多いロボット手術だが、放射線治療であれば排尿障害や勃起不全を招かなかったはず。機能を失う前に、まず放射線治療を検討すべきだ。

宇野 隆先生 放射線医、千葉大学病院 放射線部長、千葉大学大学院医学研究院 画像診断・放射線腫瘍学教授。日本放射線腫瘍学会専務理事。放射線医学のスペシャリスト

取材・文/山崎ますみ