「高槻は、『あれはハメられたんです』『(身元のわからない女性と肉体関係を持つことって)ないですか?』『フィーリングが合って、もっと知りたいって思ったら、(肉体関係を持つことって)ないですか?』と、まくし立てるのですが、東出もこういった衝動的な面を持っているのかな……と邪推してしまいます」(同・前)

 一方で、高槻は音に対して特別な思い入れがあり、また自身の演技に葛藤しながらも、舞台に真摯に取り組む姿を見せていた。

シンクロぶりは“もはや奇跡”

「高槻は女にだらしないけれど、ただの軽薄な人間ではないというキャラクター。家福が高槻に『君は自分を上手にコントロールできない。社会人としては失格だ、でも役者としては必ずしもそうじゃない』『君は相手役に自分を差し出すことができる。同じことをテキストにもすればいい』と、芝居に関して助言するシーンを見ていると、濱口監督自身が東出に語り掛けているようにも見えてしまいます」(同・前)

 濱口監督が、東出の役者としての才能を高く買っていたことはよく知られている。ウェブメディア「PINT SCOPE」での両者の対談(2018年8月30日掲載)では、

≪僕が最初に東出さんを観たのは、映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年)で、勿論そのときはまだ一緒に仕事をするなんて全く思っていないんですが、「こいついいやつだな」と感じたんですよね。東出さんの「そのまま」が写っている感じを見て、「ずっと見ていたい人だな」と感じました。その印象は、今でも変わらないですね。≫

 と、俳優・東出昌大を絶賛していた。

「東出は以前から、ネット上で『棒演技』『大根役者』『滑舌が悪い』などと、演技力を揶揄されることがよくありました。しかし、濱口監督は東出を大いに気に入っていたようで、『寝ても覚めても』では、マイペースでつかみどころがなく、恋人の前から突然姿をくらます美青年・麦と、誠実で情に厚いサラリーマン・亮平という、正反対なキャラクターの一人二役という難役に抜てき。

 麦と亮平を通して、東出の存在感が際立っていた印象でした。濱口監督は、≪東出さんの「そのまま」≫に魅力を感じ、『ドライブ・マイ・カー』でも、高槻のモデルにしたのかもしれません」(前出・映画ライター)

 なお東出は、昨年10月、コロナ禍の中、映画のロケ地である広島に、交際中の一般女性を呼んでいたことを「週刊文春」(文藝春秋)にスクープされた。これを受け、今年2月、所属事務所「ユマニテ」から専属契約を解消され、奇しくも東出は高槻と同じフリーの道を歩むことになった。

「ここまでシンクロしているのは、もはや奇跡だけに、もし東出が高槻を演じていたらどうなったのだろう……と思わずにはいられません。ただ、実現していても、不倫スキャンダルのあおりを受け、作品がイロモノ扱いにされてしまった可能性は高いと思いますが」(同・前)

 自身がモデルになったという高槻を見て、東出は何を思うのか。ぜひ『ドライブ・マイ・カー』の率直な感想を聞いてみたいものだ。