余命5か月の患者が3年弱生きたケースも

 この2人が高い治療効果を得たのは偶然ではない。この治療法のベースになったNKT細胞を使った治療法は、実際の臨床試験でも効果が出ているのだ。理研免疫再生医学・代表取締役の徳岡治衛さんに話を聞いた。

「免疫療法は昔からあり、種類もさまざまですが、免疫システムは複雑で未解明のことも多く、科学的根拠が十分でない治療が多いのも事実です。このNKT細胞標的治療は、予後が悪いといわれるタイプの肺がんが進行・再発した患者さん17人に対して臨床試験を行ったところ、一定の結果が出たのです」

 この17人は手術や抗がん剤などの治療を終えており、そのままだと、想定される生存期間の中央値は5か月程度ととても短い。従来の抗がん剤とは異なる新しいタイプの薬(分子標的薬)を使った場合でも、7~15か月程度だ。

 ところが、この治療を行った17人は18・6か月。そのなかでも狙った免疫細胞が特に活性化した10人を見てみると31・9か月で、従来の治療法と比べると約6倍に延びたのだ。

 この10人の結果をわかりやすくたとえると、余命5か月と宣告された末期状態の患者さんが3年弱生きることができたということだ。

「厳密にいうと、この臨床試験のものとは細胞培養方法の一部を変えたりと多少の違いがありますが、現在行っている治療とこの臨床試験の治療の基本的なメカニズムは同じです」(徳岡さん)

食道がんが肺に転移した62歳女性の肺断面画像。治療前は左肺に広がっていたがんが、NKT細胞標的治療を行うとがんが縮小し、45日後に腫瘍マーカーが正常化した。また、その後の生活の質も改善された。画像提供 理研免疫再生医学
食道がんが肺に転移した62歳女性の肺断面画像。治療前は左肺に広がっていたがんが、NKT細胞標的治療を行うとがんが縮小し、45日後に腫瘍マーカーが正常化した。また、その後の生活の質も改善された。画像提供 理研免疫再生医学
【写真】肺に転移したがんが3回目の投与で縮小した肺断面画像、 NKT細胞標的治療の流れ