ネットや有料チャンネルなどの登場によって、かつてほど平均視聴率を稼ぐことは出来ないのはテレビ界全体の問題だけに単純比較はできませんし、視聴率=作品の質ではありません。中には、コロナ禍のため、放送一時中断を余儀なくされた『SUITS/スーツ2』のような不運な作品も含まれていますしね。

 また、この中から映画化された『コンフィデンスマンJP』という作品が生まれているのは、「世帯」の視聴率が悪くとも、「個人」特に「若者」には刺さっているという証左かもしれません。

“月9”はどこへ行く…

 最後に、“月9”の今後について。古くからの視聴者の皆さんには、“月9”=恋愛ドラマ枠という印象を持たれている方も少なくないと思います。確かに、かつては年4作の内、3作はラブストーリーという時期が長く続いてきました。

 しかし、2017年の『突然ですが、明日結婚します』を最後に、純粋なラブストーリー的な展開を持つ作品が“月9”から姿を消し、今クールの『元彼の遺言状』に至るまで、19作連続で、非・恋愛モノ。この路線変更が、最近の“月9”復調の要因になっているのは確かです。

 また「午後9時スタート」という枠ゆえの問題が、恋愛ドラマ激減の理由かもしれません。民放のドラマ枠自体、20年前は午後8、9時スタートが週に10作、10時以降スタートが7作でしたが、現在は11時以降スタートの“深夜ドラマ”が激増し、午後8,9時スタートは5作、10時以降スタートは実に22作です。

 この中で、午後8、9時スタートは警察や医療ドラマがほとんどを占めているのが現状。恋愛ドラマは午後10時以降スタートの作品にしかほぼ存在していません。恋愛ドラマに関心の高い10~30代のテレビ離れという状況が“月9”をも飲み込んでしまったというのが実情ですね。

 低迷期を乗り越え、路線を大きく変更しながらも、才能豊かな俳優や脚本家、歌手たちの活躍の場を保ち続けている“月9”。多くの人がイメージしていたような「トレンディなラブストーリーが展開される枠」の復活は難しいでしょうが、民放ドラマ界全体の大看板枠として、質の高い作品を送り出す…それが今、そしてこれからの“月9”なのでは…掘り下げて見えてきたのは、そんな結論でした。

(文中敬称略)


小林 偉(こばやし つよし)Tsuyoshi Kobayashi
メディア研究家
メディア研究家、放送作家、日本大学芸術学部講師。東京・両国生まれ。日本大学藝術学部放送学科卒業後、広告代理店、出版社を経て、放送作家に転身(日本脚本家連盟所属)。クイズ番組を振り出しに、スポーツ、紀行、トーク、音楽、ドキュメンタリーなど、様々なジャンルのテレビ/ラジオ/配信番組などの構成に携わる。また、ドラマ研究家としても活動し、2014年にはその熱が高じて初のドラマ原案・脚本構成も手掛ける。