目次
Page 1
ー 同居中は生き生きとしていた母だったが…

 誰もがぶち当たる「親の介護と死」。それは女性有名人たちも同じようだ。病老介護を余儀なくされた堀ちえみ、コロナ禍で思うように看取れなかった阿川佐和子ー。葛藤や後悔を語る彼女たちに共通するのは親への感謝と深い愛。ここで紹介するのは、'18年に認知症の母親を看取った真矢ミキのエピソード。“よかれ”と思ってとった行動が「認知症を加速させてしまったのでは」と口にする彼女だが、介護者が抱く後悔には、どう向き合えばいいのだろうか。

同居中は生き生きとしていた母だったが…

 女優の真矢ミキは、実母の介護の晩年に後悔を残している。父が亡くなって半年ほどたったころから、実母の認知機能の衰えを感じ、自宅マンションで同居を始めた彼女。結婚後は母親との同居を解消したものの、徒歩数分の距離に家を借りて行き来をしていた。

 その後、片づけができない、料理ができないという生活能力の衰えを目の当たりにすることがあり、再び同居を開始する。夫との3人の暮らしは、母に刺激と喜びを与えたようで、真矢はインタビューで「すごく生き生きとしていた」と当時の母の様子を振り返っている。

 転機は、3人で暮らしを始めて3年半がたったころ。大腿骨頸部の骨折をきっかけに、母を高齢者施設に預けることを決意する。自宅を空ける時間が長く、1人でうまく歩けない母のお手洗いが心配だったため“よかれ”と思って決めたことだった。

 しかし、あるとき施設を訪ねると自分のことを忘れてしまった母がいた。娘である真矢のことを自分の妹の名前で呼ぶ母。それまでの大切な家族との時間が消えてしまったような感覚に陥り、施設からの帰り道、気づけば何時間も歩いていたという真矢。当時のインタビューには、施設に入って“生きた会話”が減り、認知症を加速させてしまったのではと悔やむような言葉も並んだ。

 やはり、後悔をなくすためには、無理をしても在宅で見続けたほうがよいのだろうか。介護者の支援を行っているNPO法人「UPTREE」代表の阿久津美栄子さんは、スタッフの数が限られている施設では、密なコミュニケーションを取りづらく認知症を早める可能性は高いとしながらも、“介護のプロに任せるのは当たり前の選択肢だと割り切るべき”とアドバイスする。

「在宅で親と密接な関係を保つことはよいことばかりではありません。逆にその負担で親子関係を破綻させてしまうこともあります。介護保険制度ができて20年を過ぎた今、介護は“社会で担う”時代だという感覚が必要。介護を他者に委ねることに罪悪感や後悔を抱かなくてもいい。なぜなら、介護者は介護者の人生を歩まなければならないからです」

 2018年に母親が他界したときの彼女のブログにはこう書き記されている。

「思い出せば、蛇口をひねるように涙の量は半端ないのだけど」「何があったって、いつもと変わらぬ生活に戻れる強さが大切なのかもしれない」

 介護を終えたら終点ではない。人生はまだまだ続くのだ。