芸能業界における競業避止義務は…

「たとえば、“何年間か活動出来ない”、“同じような仕事は出来ない”といったことは、法的に“競業避止”と言ってよく争いになります。たとえば技術系の開発職にある人が転職する場合、会社で得たノウハウを持って転職します。そこで同じ業種に転職されると他社が元会社で得たノウハウなどで儲かって、元の会社は割を食うといったことがあり得ます。

 そういったことから一定期間競業する会社への転職を禁じるといったことが一般に言う競業避止義務となります。他業種において同様のこういった規制(義務)を設けることが一切ダメ、無効かというと、必ずしも裁判所はそう判断してはいません。もっとも、各報道によりますと、公正取引委員会は、芸能業界における競業避止義務については、『正当な理由が想定できない』として、原則禁止であるとしています。もちろん、仮に一定程度“活動はやめてください”という義務を課してまで守るべき事務所の利益などがあるとすれば、法的に認められる可能性はあります。

 ただ、仮に守るべき事務所の利益があったとしても、例えばそれが何年という長い期間になったり、地域が限定されていなかったり、活動禁止する代償措置がなかったりすると、その制限は妥当ではないとして無効となることが考えられます。最終的には裁判によって決着するという話になります。

 ちなみに、音楽事務所の例ですが、先日、東京地方裁判所において、アーティストが契約解除後6か月の競業避止義務が定められていたケースにおいて、“(2019年当時)この種の条項が無効との一般的な認識が形成されていたという事情は認められない”というあたかも6か月の期間制限は有効と思える判断が出ました。

 個人的には、競業避止義務を課してまで守るべき事務所の利益があるかということもそうですが、それに比して活動できない=収入がなくなるアーティストの受ける不利益の大きさのほうが勝ると考えられますし、公正取引委員会の指摘のとおり、この業界で競業避止という考えはなじまないようにも感じます。また、先ほどの裁判も東京高等裁判所において、その判断が変わる可能性も十分にあります」