世界の視聴者に楽曲を覚えてもらうチャンス

 そのような状況で、『SPY×FAMILY』のエンディング主題歌に選ばれたのは、日本を代表するアーティストの1人ともいえる星野源であった。過去には、映画『ドラえもん のび太の宝島』の主題歌などを担当した経歴を持つが、いわゆる深夜アニメ系への楽曲提供は初挑戦だ。

映画『69sixtynine』舞台挨拶イベントで、女子高生にもみくちゃにされる妻夫木聡をうらやましそうに見る星野源(2004年)
映画『69sixtynine』舞台挨拶イベントで、女子高生にもみくちゃにされる妻夫木聡をうらやましそうに見る星野源(2004年)
【写真】女子高生にもみくちゃにされる妻夫木聡をうらやましそうに見る丸刈りの星野源

 近年、星野源が発表したタイアップソングをみると、NTTドコモのCMソング、NHK連続テレビ小説『半分、青い』の主題歌、TBS系ドラマ『着飾る恋には理由があって』の主題歌、映画『CUBE 一度入ったら、最後』の主題歌、UCC上島珈琲のCMソングと、いずれも深夜アニメよりも多くの人に目が触れる可能性があるものばかり。この背景について、音楽業界関係者は次のように語る。

「深夜アニメの主題歌やエンディングテーマは、日本でのヒットが見込めるようになっているのはもちろんですが、世界にアピールできる場としても注目が集まっているんです」

 深夜アニメのビジネスモデルは、かつては放送後にDVDやBlu-rayを発売して制作費を回収するのが一般的であった。しかし、動画配信サービスの普及で状況は一変。視聴数に応じた収入を得ながら、海外を含むテレビ放送のないエリアに住む人に作品を届けられるようになった。

 そこで、放送終了を待たずに、テレビ放送とほぼ同じタイミングで最新話を配信するアニメ作品が増えている。なかでも、『Netflix』など海外のファンに直接届く配信サービスとタッグを組む作品が多い。

 もともと日本のアニメは海外でもファンが多いが、動画配信サービスの登場で日本アニメは人気ジャンルとしての地位をさらに確固たるものにしつつあるのだ。

『SPY×FAMILY』も、テレビ東京系での放送が終わった直後にNetflixなどで配信。コミックが人気を得ているもののアニメとしては新作である同作が、Netflixの視聴ランキングでは、香港、マレーシア、インドネシア、フィリピン、台湾、ベトナムなどでトップ10入りを果たしているのだ。

 一方、昨今の日本の音楽シーンは、世界的にみるとK-POPとの差をつけられている印象がある。世界進出に挑むアーティストも多いが、なかなかハードルは高いのが現状と言えよう。そんななか、深夜アニメの主題歌やエンディングテーマを担当するということは、世界各国の視聴者に楽曲を覚えてもらう絶好な機会になるというわけだ。