目次
Page 1
ー ショートフィルムの中で深い絶望と孤独を物語る
Page 2
ー 被災地の現実と人々の優しさに触れて
Page 3
ー 再び「生きがい」を。能登復興への願い

 

 2024年元日の能登半島地震、続く奥能登豪雨。復興途上のこの地を舞台に、ショートフィルム『生きがい IKIGAI』は生まれた。

 企画・脚本・監督は宮本亞門。主演は、舞台・映像を問わず第一線を走り続ける俳優・鹿賀丈史。鹿賀が演じるのは、愛する妻を亡くし、2度の災害で生きる希望を絶たれた元教師で「黒鬼」と呼ばれる山本信三。助けを拒み、孤独に生きようとする男が、ひとりの青年との出会いで少しずつ心をほどいていく。

ショートフィルムの中で深い絶望と孤独を物語る

大地震の爪痕が残る場所で、『生きがいIKIGAI』の撮影は行われた(同時上映のドキュメンタリー『能登の声』より)
大地震の爪痕が残る場所で、『生きがいIKIGAI』の撮影は行われた(同時上映のドキュメンタリー『能登の声』より)

 石川県出身の鹿賀が、故郷を思いながら演じた役に込めた願いとは。

「普通、災害現場から助け出されたら喜ぶでしょう。本人も生きて帰れたことに安堵するはず。でもこの役は、そこが逆の設定からなんです」

 大地震の後の豪雨で家が半壊して72時間の生死をさまよい、救助された信三。助けられたことに感謝するどころか、鬼の形相で「わしにかもうな!」と一喝する。能登弁の最初のセリフはインパクト大だ。長いセリフはほとんどないショートフィルムの中で、そのひと言が彼の深い絶望と孤独を物語る。

「やっと死ねると思ったんですよね。17年前に亡くなった奥さんのもとに行けると安心していたら、救助されてしまった」

 助けられたことへの「憤り」が、黒鬼の心に渦巻いたのだ。

「黒鬼は、かつてギターを弾いて皆を楽しませていたような人物です。でも退職後すぐに妻を亡くし、その後十数年の孤独、そして2度の災害が彼を変えてしまった。自衛隊の手を振り払い、泥だらけのまま避難所にも入ろうとしない。ボランティアが家具の片づけを手伝おうとしても『出て行け!』と怒鳴りつけるんですからね」