実際、名取裕子は、この作品を機に状況が一変し、女優として開花。余談だが、映画・テレビドラマ合わせ、計17本もの清張作品に出演したことから「清張女優」と呼ばれるまでになる。清張作品は、若手女優飛躍の場─。では、いま悪女を演じさせたら誰が面白いか? 竹山さんはこう考える。

「今田美桜さんや本田翼さんは絵になりそう。今田さんの『黒革の手帖』、本田さん演じる球磨子の『疑惑』は見てみたい。というか、私が脚本を書きたいくらい(笑)」

 

 これまで何度も清張作品の脚本を書いてきた竹山さんだが、“ネタ切れ”はないのだろうか。

松本清張はいつの時代も必要な存在

「原作がある場合、脚本というのは作家の精神性と付き合う作業。清張先生は奥行きが深く、文学として完成されている。ですから、とても向き合い甲斐があって、飽きないんです。『ここまで脚色したら怒るかな?』とか、そういうことを想像できる原作のほうが面白い」

 何より松本清張は、「人間を描いている」と竹山さんは語る。

「『熱い空気』ではチフス菌が登場しますが、今リメイクするなら新型コロナウイルスに置き換え、家庭の内幕を暴く話にすることもできる。清張作品が時代を超えて、何度もドラマ化されるのは、時代が変わっても、人間は変わらないからですよね」

名取裕子と広末涼子

松本清張が大衆から愛される理由。それは学識を要するような高尚な話以上に、その時代を生きる人間の本能、苦悩、葛藤、欲望をあぶり出しているからにほかならない。

清張先生のほとんどの作品は、地獄のような状況を描いている。その地獄の中で、人間はどうやって生きていくのか。のたうち回る人間の姿を描いているから、私たちは見たくなる。清張作品は、刺殺といった加害描写が少ない。かわりに、毒殺や自死、事故(に見せかけるケースも)が多い」

「地獄の底が深い」と竹山さんは、松本清張の魅力を語る。

「今後も清張作品は映像化されていくでしょう。ですが、器だけを変えても意味はない。その時代の人間の情念や苦悩を描かないと、清張先生の“重さ”は響かない。人間が生きていく以上、松本清張はいつの時代も必要な存在だと思います」

 かつては老若男女が読みふけっていた松本清張。娯楽が増え、どこか上っ面の雰囲気が漂う今こそ、重さを求めて、松本清張を読み直すタイミングかもしれない。

お話を伺ったのは脚本家・竹山洋さん

脚本家・竹山洋さん

 

たけやま・よう 1946年、埼玉県生まれ。早稲田大学文学部卒業。テレビ局演出部を経て、脚本家に。主な作品に、連続テレビ小説『京、ふたり』、大河ドラマ『秀吉』、映画『四十七人の刺客』ほか多数。松本清張ドラマスペシャルを数多く手がけることでも知られる。紫綬褒章受章(2007年)、旭日小綬章受章(2017年)。