頸筋うつ(自律神経系うつ)の恐ろしさ

 だが、実はこの頸筋うつ(自律神経系うつ)の恐ろしさは自殺率の高さにあるという。心因性うつと比べ重症化すると自殺志向が強まる傾向にあるのだ。

 日本の自殺者数は、統計を取り始めた1978年以降の2003年には最多の3万4427人となったが、2010年以降は10年連続減少。しかし、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大以降は、増加傾向にある。

「ワシントンポストによるとアメリカでは、スマホの普及と10代の若者の自殺が並行して増えていることが報道されていますがその理由はわかっていない。ですが私たちは頸筋が原因であることを突き止め、治療法まで完成させているんです。日本でもコロナ禍のステイホームでスマホやパソコンに触れる時間が増えたことによる、頸筋うつが急増しています。東京脳神経センターを受診する患者さんの中には、自殺未遂の経験がある方も多い。ですが、頸筋うつと診断され、治療したところ完全にうつ症状が治っているケースも多いんです」

 副交感神経や心身の不調から希死念慮が高まっていく一方で強い倦怠感や無気力から命を絶つ行動にうつすこともおっくうになる。しかしその状態で抗うつ剤を処方され、服用を始めるとどのような状態になるのか……。

「この状態で、精神科や心療内科を受診、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノンアドレナリン再取り込み阻害薬)やNaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)などの新抗うつ剤を投与されると危険です。実はこれらの薬が引き金となり、自殺する確率が高まるとみられています」

 この薬は頸筋うつの根本原因である首のコリや自律神経の不調の解決にはならない。そのため抑うつ状態や不安、緊張状態は変わらず、さらには希死念慮も高まったままで、薬の影響で行動力だけが出てしまい、自殺に至る可能性が高いと考えられている。

誤った診断と投薬10年以上苦しんだ人も

 実は松井さんのもとを訪れるうつ症状のある患者のうち、大うつ病は5%未満で多くが頸筋うつだという。

「精神科や心療内科の専門医の中にも首コリからくる頸筋うつを知らない医師がいます。そのため治療法もわからず、大うつ病の治療薬を投与する。でも、効果がないので2倍投与、3倍投与しますが効果が出ないのです。別の病気の治療をしているのだから治らないのは当然です。それにこの薬は副作用も強い。5年、10年以上もこの薬を飲み、苦しんだ患者さんもよく来院します。誤った投薬によって死に追い込まれてしまうという悲劇が起きています」

 さらに松井さんが懸念するのは20~30代の若い男性の首の筋肉が弱まっていること。

「首の筋肉の状態をエックス線で見たとき、正常であれば頸椎の7番と胸椎の1番の間までが見えてそこから下は筋肉で見えなくなるのですが、最近の若い男性の患者さんは胸椎の2番から3番ぐらいまで見えている。つまり、筋肉が非常に少ないということです。そういう患者さんは慢性疲労などの首コリの症状が出て日常生活を送るのにも困り果てて来院されています」