同店における卵サンドのブームは、2014年7月に『行列のできる法律相談所』で芸能人のおもたせグルメのナンバー1になってから始まる。2016年ぐらいまで「長い行列ができて、店が回らないので12時に開店した後、早めの13時半に閉めざるをえなかったほどでした。並んでいる人のうち、3分の2は帰っていただくしかありませんでした。中国や韓国からのお客さんもすごく多かったです」と天野社長。

(撮影:今井 康一/東洋経済オンライン)
(撮影:今井 康一/東洋経済オンライン)
【写真】見るからに美味しそうなたまごサンド♪

『探偵!ナイトスクープ』でも、同店の卵サンドが紹介されている。

  天野社長は「テレビ朝日さんは近所ですし、TBSさんも近い。フジテレビも遠くない。テレビ局が近いため、麻布十番では芸能人が職場に差し入れする、舞台の楽屋に差し入れするという使われ方をする店がもともと多いんです。芸能人は舌が肥えているイメージもありますし、そうしたおもたせの卵サンドとして、口コミから広がったことが、人気のきっかけだったと思います」と分析する。

甘味処になぜ「玉子サンド」が生まれたのか

 1927年に大阪市で創業した同店は、希少な丹波の大納言小豆を使ったあんこのおいしさで知られていた。卵サンドを販売し始めたのは戦後。「初代の頃から、雑炊や雑煮を食事メニューとして出していたので、前日から漬けた昆布とカツオのだしを仕込んでいました。おにぎりと漬物、だし巻き卵の軽食も販売し、それとは別にミックスサンドも作っていました。そこから、だし巻き卵をサンドイッチにしたらどうかとアイデアが生まれ、試作段階では三つ葉やニンジンを入れたりもしたようです」(天野社長)。

 高度経済成長期には、難波で観劇をする際のお供に卵サンドの人気が高くなる。2000年に日本経済新聞で大きく同店の卵サンドが取り上げられ、2002年に東京に移転してからは、「あんこがおいしい甘味処」というより「卵サンドの店」として認識されるようになったという。

 卵サンドの人気ぶりを受け、デパ地下などの商業ビルを始め、韓国や中国からも出店オファーが来るなど、ビジネス拡大の勧誘は多いが断っている。何しろ、天のやの「玉子サンド」は手がかかる。