成年後見制度の種類と違い

「“不動産の処分で得られる報酬が目当てで、必要性のない売却だったのでは?”と考えたBさんは裁判を起こしています。なお、この後見人に払われた報酬は14年間で1200万円でした」

 これらのトラブルについて、宮内さんは、「銀行や家裁など、さまざまな機関の事なかれ主義や、点数稼ぎが原因ではないか」と指摘する。まず、財産や契約に関して全権がゆだねられる法定後見人が安易に決められていることが問題だ。

「銀行や介護施設から法定後見人を立てるよう求められ、やむなく家族が家裁に後見人の選出を願い出るわけですが、そもそも法定後見人が不要だったり、後見制度の中でもサポートレベルの“保佐”や“補助”で十分だったりする場合が多い。そうした確認を十分にしないまま法定後見人を求めるところがあり、その基準はあいまいです」

 こうした問題を受けて、全国銀行協会も、家族が後見人なしでも介護や医療のための費用を引き出せるよう指針を設けているが、金融機関によって対応にバラつきがある。

「深刻なのが、自治体が高齢者や知的障害者、精神障害者の後見人を立てようとして、親族ともめるトラブルです。これは'16年に施行された、『成年後見制度の利用の促進に関する法律』が原因だと私は考えています。

 自治体が後見制度の利用促進をしたという実績づくりのため、親族と疎遠なひとり暮らしの高齢者に後見人をつけようと、強引に動いているおそれがあります。親族に無断で施設や病院に入れて行き先を知らせないので、親族が走り回って探しているケースもあるほどです

 このようなトラブルを予防する方法の1つが、あらかじめ本人が元気なうちに信頼できる人と任意後見契約を結んでおくこと。本人と意思疎通ができるのに銀行や施設に法定後見人を立てるよう言われた場合は、全国銀行協会や金融庁、消費生活センターに相談するのもいいだろう。

「すでに法定後見人とトラブルが起きている場合、まずは当事者団体『後見制度と家族の会』に相談してみてください。これまでの事例をもとに対策をアドバイスしてくれます。それでも解決しない深刻なトラブルは『後見の杜』に連絡を!」

●成年後見制度の種類と違い

●任意後見制度
今はまだ元気な人が対象。将来、物事を判断する能力が不十分となったときに備えて、サポートしてくれる「任意後見人」や支援の内容をあらかじめ契約で定めておく制度。

●法定後見制度
判断能力が不十分になった人が対象。家庭裁判所によって選任された「成年後見人」が財産や契約などの権利を守り、支援が必要な本人をサポートする制度。判断能力の程度に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つに区分される。

補助 判断能力が不十分な人
保佐 判断能力が著しく不十分な人
後見 常に判断能力が欠けている人

 

教えてくれたのは宮内康二さん

一般社団法人『後見の杜』代表。シニアによる市民後見活動の推進と並行し、成年後見制度のトラブル対応をサポート。『後見の杜』を立ち上げた。新著『成年後見制度の落とし穴』(青志社)では、成年後見制度をめぐる深刻なトラブル事例を紹介。改善を強く訴えている。

 

 

7月発売の宮内さんの新著でも成年後見制度の問題を詳述している(画像をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします)

取材・文/吉田きんぎょ